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有償時価発行新株予約権とは

有償時価発行新株予約権は、金銭による払込みをもって発行される新株予約権であり、無償で発行する新株予約権のように従業員等からの労働サービス提供の対価として発行するものではないため、ストック・オプションのように費用計上は必要がないと整理されていました。
しかしながら、有償時価発行新株予約権も従業員等からの労働サービス提供の対価として発行するものではないかという議案がASBJ(企業会計基準委員会)に提案されたことにより、ASBJは、有償時価発行新株予約権の会計処理について検討を行い、結果として2018年4月1日から、有償時価発行新株予約権を発行する上場会社においては、費用計上が強制されることになりました。(非上場会社においては、本源的価値で評価することが認められるため、依然として費用計上を行わない会計処理となっています。)

従来のストック・オプションとの違い

業績条件に関しては、その条件により、付与対象者の将来のオプションの期待値を変動させる要因があります。例えば、発行体の営業利益が前年度を上回らなければ行使できない等の条件が付されている場合、その条件が付されていないストック・オプションと比較すると、明らかに付与対象者にとっては行使を制限されるハードルとなっており、ストック・オプションの期待値は低くなります。そのため、プレーンなストック・オプションよりも価値が低くなることから、発行時点の払込金額も小さくすることが出来ます。
また、無償ストック・オプションが報酬として整理され取締役向けに発行する場合には株主総会での報酬枠に係る決議が必要となるのに対し、有償時価発行新株予約権では付与対象者がその価値分を金銭で払い込んで投資として引き受けるため、公正価値で発行する限り、上場会社においては、一般的に取締役に対しても取締役会決議のみで発行することができるものと考えられており、発行時期を考慮しながら機動的なインセンティブ・プランを検討できるというメリットがあります。

権利行使時の課税関係

ここで、税制適格要件を満たしていないにもかかわらず、有償時価発行新株予約権を権利行使した際に、給与所得課税とならない点について、一般的な税務上の取り扱いを紹介します。「有償時価発行新株予約権であれば、権利行使時に給与所得課税とはならない」と記載されている条文はありませんが、所得税法施行令84条4項の裏読みで、給与所得課税の適用から外れていることがわかります。すなわち、所得税法施行令84条4項には、新株予約権を無償又は公正価値より低い価額で発行した場合には、株式の時価と権利行使価格の差額が権利行使時の所得となると記載されています。そのため、裏を返せば、公正価値で発行された新株予約権には適用されないものと読み取ることができます。有償時価発行新株予約権は通常、オプション評価モデルを用いて計算された公正価値で発行されるため、上記の所得税法施行令84条4項の規定には該当せず、権利行使時には所得に該当しないものと整理できます。その結果、権利行使時には課税関係が生じず、譲渡時において譲渡所得課税となると考えられます。

メリット・デメリット

有償時価発行新株予約権は、前述のとおり公正価値をもって発行する限り、上場会社においては、取締役に対しても取締役会決議のみで発行することができ、無償ストック・オプションを取締役向けに発行する場合に必要な株主総会での報酬枠に係る決議が不要であり、発行時期を考慮しながら機動的なインセンティブ・プランを検討できるというメリットがあります。上場会社にとってこれは大きなメリットで、役員報酬枠の決議は定時株主総会以外で付議されることは非常に稀です。すなわち、上場会社では新規事業やM&Aなど、新たなインセンティブ設計の動機があっても、通常は年1回しか株式報酬を設計する機会がないですが、有償時価発行新株予約権を用いれば時期にかかわらずインセンティブ・プランの設計・実施が可能となると考えられます。なお、非上場会社(非公開会社)では、新株予約権の発行自体には株主総会が必要となります。さらに、無償ストック・オプションを発行する際に考慮項目の1つとして挙げられ、制度設計上のボトルネックとなる税制適格要件の制約を受けることなく、税制適格ストック・オプションとおおむね同一の税務メリットを享受できることになります(権利行使時非課税)。また、有償時価発行新株予約権には、企業が目標とする業績を達成した場合に初めて権利行使が可能となる条件が付されていることがほとんどであり、権利行使されて希薄化される場合には、基本的に業績の向上が伴っております。そのため、他の株主にとっても株価上昇の期待値が高まることとなり、業績の向上を伴わずに偶然株価が上昇して行使される際に懸念される単なる希薄化を招くことはなく、他の株主に配慮したスキームであると言えます。

一方で、有償時価発行新株予約権の発行は、その名の通り、新株予約権を有償で発行するものであり、付与時において、付与対象者には付与時に資金負担が生じることに留意する必要があります。さらに、有償時価発行新株予約権の行使条件が未達(株価が権利行使価格より上昇しない場合や、業績条件を設定していたが条件に届かなかった場合等)の場合には、付与対象者は権利行使できなくなるというデメリットがあります。

プルータス・コンサルティングの強み

プルータス・コンサルティングは、創業以来10年以上、上場・未上場を問わず延べ1,000件を超える有償ストック・オプションの発行事例に関与し、新株予約権の評価のみならず、その発行手続や導入事例などに関する適切なアドバイスを実施することが可能です。

 

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