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No.
145

上場会社におけるインセンティブプランの導入状況(2023年4月28日号)

Topic. ► 上場会社におけるインセンティブ・プランの導入状況


 

はじめに

東京証券取引所(以下「東証」という)は、2023年4月4日に「東証上場会社 コーポレート・ガバナンス白書2023」(以下「コーポレート・ガバナンス白書」という)を公表しました。
本稿では、コーポレート・ガバナンス白書内で記載されているインセンティブプランの導入状況について直近の傾向を紹介します。
 

上場会社におけるインセンティブプランの導入状況

コーポレート・ガバナンス白書では、東証上場会社3,770社のコーポレート・ガバナンスに関する報告書のデータより、各社のインセンティブプランの導入状況を分析しています。
下記のグラフによると、ストック・オプション制度を導入している会社は、2012年以降、30%近辺で推移しています。一方で、業績連動型報酬やその他については近年割合が上昇傾向にあります。
 
コーポレート・ガバナンス白書では、業績連動型報酬の採用比率の増加について、2016年4月に経済産業省より公表された「「攻めの経営」を促す役員報酬-企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引-」を受け、その導入割合が伸長していることが触れられています。
 
譲渡制限付株式の導入割合が伸長しているのは、2016年度税制改正における役員報酬の損金算入制度の見直しにより事前確定届出給付に該当すると明示され、損金算入が認められたことも要因となっているとみられています。

 

※株式会社東京証券取引所『東証上場会社 コーポレート・ガバナンス白書2023』を基に弊社作成
 
全体としてはストック・オプション以外の採用割合の増加がみられましたが、他方、市場区分別で見ると、プライム市場では業績連動型報酬の採用割合が高いものの、グロース市場ではストック・オプションの採用割合が高くなっており、発行会社の状況によって導入するインセンティブプランの構成が異なっています(下図参照)。
 
<インセンティブ付与に関する施策の実施状況(市場区分別)>

※株式会社東京証券取引所『東証上場会社 コーポレート・ガバナンス白書2023』を基に弊社作成
 
市場区分で相違がみられる理由については各社各様ではあるかと思いますが、プライム市場に上場している企業が中長期的に安定した企業価値向上を目指すのに対し、グロース市場を中心とした成長企業では、将来の高い成長を見込んで株価の上昇分のキャピタルゲインを得られるストック・オプション制度(下図、「値上がり益型」に該当)を選ぶケースが多いことも一つの理由であると思われます。
 
<インセンティブプランの分類例>

 

インセンティブプランにおけるKPI条件の設定

前2章では、各インセンティブプランの導入状況の全体感を見てきました。本章では、近年導入率の高い業績連動型報酬に触れたいと思います。
 
コーポレート・ガバナンス白書では、当該インセンティブプランにおいて、KPIの達成度に応じて報酬を支給する例についても触れられており、指標としては売上高や営業利益率以外にも、ROE等の資本効率性の指標を掲げる例が一定数みられると述べられています。これは2018年6月1日に公表されたコーポレートガバナンス・コードの改訂により、資本コストの的確な把握等が求められるようになったことに伴うものと考えられます。
 
また、サステナビリティに関するデータの開示についても、企業価値向上の取り組みの一つとして急速に重要ファクターとなってきています。2021年6月11日に公表されたコーポレートガバナンス・コードの改訂により、成熟企業・成長企業を問わず、関連情報の開示を求められるようになり、注目度が一層高まっています。コーポレート・ガバナンス白書においても、大手企業を中心に報酬支給のKPIとしてGHG(温室効果ガス)排出削減量等の非財務指標を取り入れた例がみられる点について触れられています。
 
ウイリス・タワーズワトソン(WTW)の2022年の調査によると、役員報酬に環境関連の指標をKPIとして採用している企業は、欧州では約8割、米国では約6割、日本においてもTOPIX100構成企業の6割以上が導入していることが分かります。
 
個別の事例を見ると、役員だけでなく従業員の報酬についても上記のような指標と報酬を連動させる開示がみられます。個社事例として、花王株式会社では長期インセンティブ報酬制度の一つに株式報酬を導入しており、変動部分 (70%)と固定部分 (30%)に分かれた形で株式交付をおこなう形としています。評価指標としては、成長力評価指標 (40%)・ESG力評価指標 (40%)・経営力評価指標 (20%)を掲げ、サステナビリティ活動も重視した設計としています。今後もこの流れは継続していくとみられます。
 

おわりに

これまで、コーポレート・ガバナンス白書より上場会社におけるインセンティブプランの導入状況を概観しました。短期~中長期的な企業価値向上を図るためのインセンティブプランとして、ストック・オプション制度に加えて、業績連動型報酬やその他の報酬制度の採用割合が高まってきていることがわかります。
 
弊社では、ストック・オプションの評価を中心としているものの、各発行会社が考えるインセンティブプラン全体の構想から、ストック・オプションやその他の株式報酬制度に落とし込むための相談も数多く受けております。今後も、インセンティブプラン検討における相談窓口としてサポートいたします。
 

《参考》
1.東京証券取引所 2023年4月4日付「東証上場会社 コーポレート・ガバナンス白書2023」
2.経済産業省 2016年4月版「攻めの経営』を促す役員報酬-企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引-」
3.東京証券取引所  2021年6月版「コーポレートガバナンス・コード」
4.WTW プレスリリース 2022年8月16日付「役員報酬にESG指標を反映する企業62%(昨年比32%UP)、米国並みに」
5.花王株式会社 ホームページ 「役員報酬制度」
 

 

執筆者紹介


林 俊宏 < エクイティ・アドバイザリー部 コンサルタント >
大学卒業後、SMBC日興証券にて主にストック・オプションの管理業務、上場企業の持株会運営サポートに従事。より専門的な支援を行うためプルータス・コンサルティングに入社。入社後は、幅広い企業に対してストック・オプションなどのインセンティブ・プランの設計や資本政策に関する提案を行っている。

木下 璃香 < エクイティ・アドバイザリー部 コンサルタント >
大学卒業後、日系および外資系資産運用会社を経てプルータス・コンサルティングに入社。現在は主に第三者割当増資やストック・オプションなどのインセンティブ・プランの設計・評価、発行サポート業務に携わっている。


株式会社プルータス・コンサルティング 広報担当

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