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エクイティ・ファイナンス

情報発信 調査・研究

No.
171

2024年 上場企業エクイティ・ファイナンス動向調査(2025年6月号)

はじめに

2024年、インフレや金利動向、地政学的リスクなどの不確実性が高まる世界経済環境下で、多くの日本企業がエクイティ・ファイナンスを積極的に活用しました。その背景には、従来の事業成長のための投資、財務基盤の強化、M&A戦略の推進といった目的に加え、ESGコミットメントと企業成長の両立を図る戦略、そして資本業務提携を通じた事業領域の拡大とシナジー創出といった、多岐にわたる戦略的な意図が見られます。
東京証券取引所(以下、「東証」)が「資本コストや株価を意識した経営」の実現を継続的に求める中、企業は資本効率を重視した経営へのシフトを一層強めています。こうした動向を受け、2024年においてもエクイティ・ファイナンスによる調達資金は、知財・無形資産創出や人的資本への投資、設備投資、事業ポートフォリオの見直し等、多岐にわたる取り組みに充当されています。
本稿では、2024年に実施されたエクイティ・ファイナンス事例を詳細に分析し、資金使途を含めた具体的な内容や多様な戦略的活用事例を掘り下げます。

資金調達の目的と活用状況

2024年に上場企業が公募による株式と転換社債(CB)、第三者割当による株式、新株予約権(WT)、CBで調達した資金使途を分析しました。調達した資金は様々な用途に充当されていますが、既存・新規問わず事業運営に充当された場合は「事業」、CBの借り換えも含めた借入金の返済に充当された場合は「借入返済」、そして今後実施されるM&Aのための待機資金や実際に買収手続き中の買収資金に充当する場合には「M&A」という分類分けをしています 。これらの分類に基づき、実施された資金調達件数に対して、発行される有価証券ごとの資金使途比率を計算しており、分析結果は下図の通りです 。

■図1 資金使途(2024年の公募増資および第三者割当増資)

※パーセンテージは小数点切り捨て表示。以下同様。

公募と第三者割当のいずれにおいても事業運営への資金充当が主ですが、M&Aへの充当割合は公募より第三者割当の方が高く、第三者割当増資の資金使途の柔軟性が示唆されます。特に第三者割当ではM&Aのための待機資金や買収資金としてだけでなく、一時的に借り入れで賄ったM&A資金の返済(借入返済)に充当されるケースも含まれており、その資金使途の柔軟性がうかがえます。東証が「資本コストや株価を意識した経営」に関する要請を強める中、自己株式取得を伴う公募CB(リキャップCB)によるROE向上事例も確認されています。一方で、東証は株主還元強化のみの一過性の対応ではない、抜本的な取り組みを期待している点には留意が必要です。

希薄化率・行使価額・行使期間

エクイティ・ファイナンスにおける調達種別ごとの希薄化率は下図の通りです。

■図2 有価証券ごとの希薄化率(2024年の公募増資および第三者割当増資)

※発行リリースに記載された議決権ベースの希薄化率を集計。

第三者割当では、公募に比べて希薄化率が高い傾向にあり、より大規模な資金調達や戦略的意図を反映した活用がうかがえます。
新株予約権の行使価額修正水準、行使価額修正頻度、行使期間については、下図のような傾向があります。

■図3 新株予約権の行使価額修正水準、行使価額修正頻度、行使期間(2024年)

上場維持基準適合に向けた施策

東証の新市場区分における上場維持基準の経過措置終了を控え、多くの企業が基準適合に向けた施策を実行しました。この中で、エクイティ・ファイナンスも重要な役割を担っていました。
具体的には、公募による株式発行や売出しで流通株式比率の基準適合を目指した事例が見られました。第三者割当による新株予約権を活用し、流通株式時価総額、流通株式比率や売買代金の基準適合を図ったケースも散見されます。第三者割当での新株予約権の発行事例では、ほとんどの割当先は、新株予約権の行使により取得した株式を長期保有せずに市場動向等を勘案して適時売却していく方針と記載しています。そのため、割当先に付与された新株予約権が行使されることで流通株式数の増加や売買代金の拡大に繋がることが考えられます。

エクイティ・ファイナンスに見る戦略的活用と今後の方向性

エクイティ・ファイナンスは、単なる資金調達手段にとどまらず、企業の多様なニーズや戦略的意図に対応可能な設計へと進化しています。具体例として、以下の二つのケースを挙げます。
太平電業株式会社が2024年2月に野村證券株式会社に対し発行を決議した「サステナブルトリガー型」新株予約権は、その多様性を示す事例の一つです。これは、同社が推進するグリーンプロジェクト(木質バイオマス発電所建設など)の進捗という特定のトリガー達成後に初めて行使可能となる本邦初の設計です。中期経営計画の実行に連動した段階的な資金調達を可能にすることで、ESG要素と企業成長を両立させることを目的としています。この仕組みは、企業のESGに対するコミットメントを明確にし、投資家からの信任を得ることに寄与することも考えられます。

■表1 太平電業株式会社が野村證券株式会社に対し発行した「サステナブルトリガー型」新株予約権
(2024年2月16日発行決議)

※調達規模および希薄化率は、同時に発行された第1回・第2回合計、当初行使価額で全て行使された場合の総額を記載。

株式会社テラスカイと株式会社NTTデータの資本業務提携においては、NTTデータが子会社からのテラスカイ株式譲受や市場買付に加え、テラスカイの業績向上を条件とする新株予約権を引き受けています。このスキームは、提携の成功と業績向上が実現して初めて、NTTデータが最終的にテラスカイの株式20.12%を取得するという特徴を持ち、複数の有価証券を組み合わせた戦略的な資本業務提携事例として注目されます。テラスカイの事例に見られる業績条件付き新株予約権の活用は、提携先のコミットメントを強化し、企業価値向上と既存株主の利益を同期させると考えられます。

■表2 株式会社テラスカイが株式会社NTTデータに対し発行した業績条件付き新株予約権

※本新株予約権の発行価額総額と、全ての本新株予約権が当初の行使価額で行使されたと仮定した場合の行使価額合計額。

このように、2024年に上場企業によって実施されたエクイティ・ファイナンスは、従来の事業成長や財務基盤強化、M&A戦略推進に加え、上場維持基準への適合やサステナビリティ経営への対応、そして業務提携の強化といった、現代の企業経営における多様な課題解決と戦略的な成長を目指す上で重要な役割を果たすものとなりました。

おわりに

プルータス・コンサルティングでは、エクイティ・ファイナンス実施時の有価証券の公正価値評価だけでなく、エクイティ・ファイナンスが必要な発行会社のニーズに応じた有価証券の設計や提案をしています。また、有価証券の割当先(投資家)は投資スタイルや投資行動、保有方針など、様々な特徴を持っていますが、発行会社の志向に応じた選定サポートも行っています。
株式による資金調達は、上場会社の大きなメリットですが、既存株主にも影響のあるコーポレートアクションです。弊社は、これまで1,000件以上のエクイティ・ファイナンスに関わってきた実績から、今後もエクイティ・ファイナンスの適切な実施に貢献してまいります。

参考文献

  • 太平電業株式会社 『第三者割当による行使価額修正条項付第1回及び第2回新株予約権の発行条件等の決定に関するお知らせ~第2回新株予約権は本邦初の「サステナブルトリガー型」~』 (2024年02月16日)
  • 太平電業株式会社 『第三者割当による行使価額修正条項付第1回及び第2回新株予約権(行使指定・停止指定条項付)の発行条件等の決定に関するお知らせ~第2回新株予約権は本邦初の「サステナブルトリガー型」~』 (2024年02月16日)
  • 太平電業株式会社 『第三者割当による行使価額修正条項付第1回及び第2回新株予約権(サステナブルFITs)の発行に関する補足説明資料』 (2024年02月16日)
  • 株式会社テラスカイ 『Salesforceビジネス強化を目的にNTTデータと資本業務提携』 (2024年04月12日)
  • 株式会社テラスカイ 『資本業務提携、第三者割当による第 5 回新株予約権の発行並びに主要株主及びその他の関係会社の異動(予定)に関するお知らせ 』 (2024年04月12日)

 

執筆者紹介

小西 智大 < コンサルティング部 コンサルタント >
慶應義塾大学経済学部卒業。東証プライム上場の事業会社で法人営業に従事したのち、プルータス・コンサルティングに入社。現在は、スタートアップから上場企業まで幅広い企業を対象に、戦略的な資本政策を提案している。


株式会社プルータス・コンサルティング 広報担当

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