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120
上場企業における優先株式の発行事例調査/セミナーのご案内(2021年2月26日号)
Topic1. ► 上場企業における優先株式の発行事例調査
近年、上場企業の資本増強やデット・エクイティ・スワップ(負債の株式化)などの場面で、優先株式の第三者割当が活用されています。一方で、優先株式には普通株式と比較して様々な条件が付されることが一般的で、特に既存株式の希薄化に影響を与える条件での発行は、発行条件等の合理性を慎重に検討することが求められます。
本稿では、優先株式の発行条件を検討する際の参考にして頂く目的で、2016年から2020年の5年間(以下、「集計期間」)の開示情報を基に、上場企業の優先株式の発行状況を整理しました。
➢ 優先株式の発行状況の推移
集計期間における優先株式の発行社数、および発行件数は以下の通りです。(※1)
➢ 優先株式のタイプ別発行状況
優先株式には、割当先の権利として優先株式を普通株式に転換できる「株式対価の取得請求権」や、発行会社が強制的に優先株を普通株式に転換する「株式対価の取得条項」が付されている転換型優先株の事例が多くあります。一方で、普通株式への転換を想定していないタイプは、社債型優先株と呼ばれます。
以下は、集計期間に発行が確認できた上場企業の優先株式の転換型、社債型のタイプ別発行件数です。
➢ 優先配当の状況
優先株式には、一般的に、普通株式に対して剰余金の配当の支払いが優先される「優先配当」が付加されます。以下は、集計期間に発行された優先株に付加された優先配当率の一覧を表しています。
項目「その他」に関しては、発行時からの経過年数によって配当率が上昇するステップアップ型や、日本円TIBORなどの市場金利と連動させる市場連動型、普通株式への配当に1.1を乗じた配当率とする普通株式連動型などがあります。また、配当条件がある41件の事例のうち、累積条項は25件であり、非累積条項の16件を上回りました。
➢ 各種条件の付加状況
優先株式には、優先配当のほかに、様々な条件が付加されています。以下は、主な条件の付加状況の集計結果です。
➢ 優先株式の公正価値評価
多くの事例において、発行価額の検討や、発行条件等の合理性を検討する目的で、第三者評価機関による公正価値評価が実施されています。また、発行企業として、他の資金調達手段との比較検討や、既存株主への影響等を精査する目的にも活用されています。
公正価値評価に際しては、上記に記載した優先配当率や転換型、社債型のタイプなど、優先株に付加されている各条件を勘案する必要があります。算定手法は、将来の優先株主の期待キャッシュフローを対象株式に応じた割引率で割り引いて現在価値を算定する方法が一般的であり、オプション性を考慮する場合には、二項モデルやモンテカルロ・シミュレーションが多く使われています。
➢ 公正価値評価の結果と優先株式の発行決議の決議体
優先株式を発行する際には、発行条件の合理性を検討する目的で、第三者評価機関による公正価値評価が実施されています。公正価値評価の結果は以下の通りです。
また、新しい優先株式を発行するための定款の変更は、定時株主総会の特別決議が必要ですが、定款の変更が完了している場合で、公正発行にて発行がされる優先株式に関しては、取締役会にて発行決議を行うことが可能です。集計期間における優先株式の発行決議の状況は以下の通りです。
発行価額が評価結果よりも高い、もしくは同等であれば、基本的には公正発行といえると考えられます。しかし、優先株式は様々な条件が付加されており、その評価方法についても様々な見解があり得ることから、既存株主の意思を確認するために多くの事例において定時株主総会に発行決議が付議されているのが実態です。実際に上記の表より、発行価額が評価結果よりも高い、もしくは同等の事例の合計17件のうち、取締役会で発行決議をしている事例は6件にとどまっています。
➢ おわりに
弊社は、評価機関として上場・未上場を問わず多くの優先株式の発行事例に関与し、公正価値評価のみならず、その発行手続や導入事例などに関する適切なアドバイスを実施してきました。より詳細な情報や実際の発行手続きに関してお知りになりたい場合は、直接お問い合わせフォームよりご連絡ください。
(※1) 発行決議の結果にかかわらず、発行に関する開示が行われた件数を集計しています
(※2) 株式対価の取得請求権か株式対価の取得条項のどちらか、もしくは両方が付加されている優先株式
Topic2. ► セミナー・イベント情報
経営者、管理部門責任者さま向け:これからの成長企業における資本政策
この度、みらいコンサルティンググループと共催でウェブセミナーを開催することとなりました。
<セミナー概要>
第1部:ストック・オプションによる戦略的な資本政策
● 信託型ストック・オプションとは?
● 従来型の信託型ストック・オプションと新しい信託型ストック・オプションの違いとは?
● 信託型ストック・オプションを導入するタイミングはいつがベスト?
第2部:これからの成長企業、IPOに向けた管理業務とDX
● これからの成長企業、そしてIPOに向けて求められる管理業務(バックオフィス)とDX、その業務改革について
● 士業をパートナーとして真に活用するための方法とは何か
● 成長企業から上場企業へ、IPOエコシステムという考え方
<日時> 2021 年 3月 18日(木)15:00~16:30
<会場> Web開催
<受講料>無料
<対象者>経営者、管理部門責任者の皆さま
皆さまのご参加を、心よりお待ち申し上げます。
執筆者紹介
林 将大 < コンサルティング部 コンサルタント >
大学卒業後、野村證券、香港の金融機関にて幅広い金融業務に従事した後、Fintechスタートアップへの経営参画を経て現職。スタートアップから上場企業まで幅広いフェイズの資本政策を支援。 慶應義塾大学経済学部卒、北京語言大学中国語課程修了
株式会社プルータス・コンサルティング 広報担当
〒100-6035 東京都千代田区霞が関3-2-5 霞が関ビルディング35階
TEL:03-3591-8123
※ 本メールは、プルータス・コンサルティング社員が名刺交換および面談させて頂いた皆様にお送りしております。配信停止のご希望は こちら から承ります。
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