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上場企業における有償ストック・オプションの事例調査(2020年6月30日号)
Topic. ► 上場企業における有償ストック・オプションの事例調査
これまで弊社レポートでも複数回に渡って解説をしてきた有償新株予約権(有償ストック・オプション)ですが、上場企業の役職員向けのインセンティブプランとして引き続き多くの企業で発行されています。今回は、上場企業の開示情報から、有償ストック・オプションの発行事例を整理しました。
有償ストック・オプションの発行諸条件
2019年に開示された上場企業における有償ストック・オプションの発行諸条件をまとめました。
・発行規模
発行済株式総数に対してどれくらいの割合の有償ストック・オプションを発行したのかを下記の表にまとめました。税制適格ストック・オプションや譲渡制限付株式よりも大きな規模で発行されています。
![](https://www.plutuscon.jp/wp-content/uploads/2020/06/f9e83d9629937cfa14ea3c3696ec6d3f-2-1024x112.jpg)
・付加した権利行使条件
一定の業績目標の達成を求める業績条件を付加する事例が引き続き多数を占めています。中期経営計画における業績目標を業績条件に連動させる事例も見受けられます。業績以外に株価に対するコミットメントを示す強制行使条件※を付加する事例も増加しています。
※有償ストック・オプション発行後、発行企業の株価が一定水準を下回ってしまった場合、満期までに必ず権利行使しなければならないという条件です。
![](https://www.plutuscon.jp/wp-content/uploads/2020/06/d39540b5a5acb26af5ae56b2aac10a66-3-1024x111.jpg)
・発行企業の時価総額と市場
有償ストック・オプションは、発行時の株価を権利行使価格とするため、株価が権利行使価格を上回らないとメリットがありません。そのため、上場市場や時価総額に関わらず、将来の株価上昇をインセンティブとしたい企業が有償ストック・オプションを発行していると考えられます。
![](https://www.plutuscon.jp/wp-content/uploads/2020/06/6c5c09f02b2924b12da6ebcb508784a1-1024x267.jpg)
※時価総額は、有償ストック・オプション発行時の金額です。
有償ストック・オプションのメリット
有償ストック・オプションは、取得者である役職員が公正価値を支払って新株予約権を取得する取引であるため、以下のような効果が期待でき、または、制度上整理されています。
1、付与対象者の資金負担を求めることによる効果
付与対象者が資金負担して新株予約権を取得することになるため、その取得にあたり、付与対象者に会社の業績や株価を強く印象付け、社内における意識改革のきっかけとして機能させることができます。このため、業績や株価について士気の高い者に対して付与することにより、より強いインセンティブ効果が期待できます。
2、機動的な発行が可能
発行会社の取締役に発行する際においても自己の実際の払込みにより新株予約権を取得するものであり会社法上の報酬には該当しないと整理されている※ことから、取締役の報酬に関する株主総会決議が不要であり、取締役会のみで機動的に発行が出来ます。
※「有償ストック・オプションへの法務・税務への影響」(経理情報 2018.5.1)
3、取得者の税務上の取扱い
取得者が新株予約権を公正価値で取得する取引であるため、取得時及び権利行使時の課税はなく、株式売却時のキャピタルゲインにのみ課税される取扱い※になっています。
※デロイト トーマツ税理士法人 西村美智子 森将也「上場準備会社におけるインセンティブプランの検討~特定譲渡制限付株式・ストックオプションを交付した場合の課税関係~」(国税速報 第6431号 2016.10.10)
有償ストック・オプションの会計処理
上場企業の有償ストック・オプションは、2018年1月に企業会計基準委員会(ASBJ)より実務対応報告第36号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い」が公表され、会計上の費用が計上されることとなりました。
おわりに
有償ストック・オプションは、様々な形態で活用されていますが、理論的価値に基づいて発行されなければ、株主による差止請求を受ける可能性があり、会計や税務にも影響を及ぼすことになってしまいます。そのため、有償ストック・オプションを発行する場合、その理論的価値について対外的な説明責任が果たせるよう、新株予約権の評価実務に精通した専門家に事前に相談することが必要となります。
プルータス・コンサルティングは、創業以来15年以上、上場・未上場を問わず延べ1,000件を超える有償ストック・オプションの発行事例に関与し、新株予約権の評価のみならず、その発行手続や導入事例などに関する適切なアドバイスを実施してきました。本稿を通して、インセンティブプラン設計の参考にして頂ければ幸いです。
執筆者紹介
林 将大 < コンサルティング部 コンサルタント >
大学卒業後、野村證券、香港の金融機関にて幅広い金融業務に従事した後、Fintechスタートアップへの経営参画を経て現職。スタートアップから上場企業まで幅広いフェイズの資本政策を支援。 慶應義塾大学経済学部卒、北京語言大学中国語課程修了
株式会社プルータス・コンサルティング 広報担当
〒100-6035 東京都千代田区霞が関3-2-5 霞が関ビルディング35階
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※ 本メールは、プルータス・コンサルティング社員が名刺交換および面談させて頂いた皆様にお送りしております。配信停止のご希望は こちら から承ります。
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