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令和6年度税制改正及びセーブハーバールールを適用した場合の税制適格ストック・オプションの発行時の検討ポイントの整理(2024年3月29日号)

Topic. ► 令和6年度税制改正及びセーブハーバールールを適用した場合の税制適格ストック・オプションの発行時の検討ポイントの整理


 

はじめに

昨年7月の改正租税特別措置法関係通達の新設(いわゆるセーフハーバールールの制定)に続き、12月22日の閣議決定により、令和6年度 税制改正大綱が公表され、「税制適格ストック・オプションが従来よりも使いやすくなる」とスタートアップ企業を中心に大きな関心を呼ぶところとなりました。その後、2024年2月に財務省より「所得税法等の一部を改正する法律案」が公表され、緩和される要件が明文化されました。
 
本件に対しての関心度の高さから、弊社にお問い合わせをいただく機会も多く、今回は令和6年度 税制改正、及び、昨年に国税庁より見解が示されたセーフハーバールールを活用した税制適格ストック・オプションの発行をテーマとし、変更点の概要、検討にあたってのポイントなどを取り上げたいと思います。
なお、実際に税制適格ストック・オプションの発行を検討される場合は、各専門家(法務及び登記の観点からは弁護士・司法書士、税務上の観点からは税理士、ストック・オプションに係る会計処理に関しては会計士・監査法人)に必ず確認・相談をいただいたうえで、手続きをおすすめください。
 
本稿の具体的なトピックは以下の4点となります。

<令和6年度 税制改正に伴う税制適格要件の変更点・セーフハーバールールに関して>
① 権利行使により交付される株式の保管委託要件の緩和
② 1年あたりの権利行使総額の限度額引き上げ
③ 社外高度人材(「特定事業者」)への付与要件の緩和
④ セーフハーバールールを適用したSOを発行する場合の実務上の論点に関して

 

①権利行使により交付される株式の保管委託要件の緩和

根拠条文:租特法29条の2第1項6号
<改正前>
税制適格ストック・オプションの行使によって取得する株式について、取得後は直ちに証券会社等に対して保管の委託等を行う必要がありましたが、この要件を満たすには選択肢が限られておりました。選択肢は以下の2通りです。
①上場をして保管振替制度を利用する
②上場前の場合は定款変更をおこなって株券発行会社となったうえで受託してくれる証券会社などを探す
どちらも要件としてのハードルが高いため、税制適格ストック・オプションを発行する場合は原則、発行会社の上場が前提となっておりました。
 
<改正後>
株主名簿を作成する際に、通常の株式と税制適格ストック・オプションの行使による株式を区別して管理が行われることを前提に、従前の証券会社等への保管委託か、自社での株式管理かを選択適用可能となり、株券発行会社への定款変更は不要となります。
また、保管委託要件を満たしている場合には、上場せずM&Aで権利行使をおこなう場合も税制適格を維持できると解されております。なお、改正法案では「譲渡制限株式に限る」とありますので、対象会社は公開会社ではなく非公開会社を想定しています。
 

【令和6年度 所得税法等の一部を改正する法律案(所得税法の一部改正)より保管委託要件の該当箇所を抜粋】

対象となる新株予約権に係る契約の要件に、「新株予約権の行使に係る株式会社と当該新株予約権を与えられた者との間であらかじめ締結される新株予約権の行使により交付をされる当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る。)の管理に関する取決め(当該管理に係る契約が権利者の別に締結されるものであることその他の一定の要件が定められるものに限る。)に従い、取得後直ちに、当該株式会社により管理がされること」を加え、現行の「新株予約権の行使により取得をする株式につき金融商品取引業者等の営業所等に保管の委託等がされること」との選択適用とする。
 
<取り決め要件>
当該管理に係る契約が権利者の別に締結されるものであること、会社が新株予約権の行使により交付をされる当該株式会社の株式につき帳簿を備え、権利者の別に、株式の取得その他の異動状況に関する事項を記載し、又は記録することによつて、当該株式を当該株式と同一銘柄の他の株式と区分して管理をすること
その他の政令で定める要件が定められるものに限る。

 

②1年あたりの権利行使総額の限度額引き上げ

これまで年間行使総額の上限が1,200万円まででしたが、ストック・オプションの利便性向上を目的として、年間権利行使価額の引き上げが実施されます。なお、上場企業、非上場企業での分類があり、その中でも設立年数に応じた区分がなされる予定です。
 
<改正前>
年間の権利行使価格の上限について、年間1,200万円までとなっておりました。
 
<改正後>
発行会社の形態に応じて、以下のような細かい区分分けがなされる予定です。
 
(1)上場企業

 
(2)非上場企業

 

③社外高度人材(「特定事業者」)への付与要件の緩和

令和元年度税制改正以降、認められていた社外高度人材への付与に関しても、中小企業等経営強化法施行規則の改正を前提として、令和6年度税制改正にて一部要件の撤廃や緩和がおこなわれる予定です。
 
<社外高度人材に係る要件の前提>
令和元年度 税制改正
税制適格ストック・オプションの付与対象者は発行会社の取締役、執行役及び使用人に限定されていたが、令和元年度 税制改正により、「一定の要件を満たす外部協力者」への税制適格ストック・オプションの付与が可能となりました。
 
令和6年度 税制改正
令和元年度税制改正で認められた「一定の要件を満たす外部協力者」の要件が一部見直される予定です。変更点は以下の通りです。
※変更点として記載がない要件に関しては、令和元年度税制改正から変更がないものとしております。
 

 
税制適格ストック・オプションの付与対象者は発行会社の取締役、執行役及び使用人に限定されていたが、令和元年度 税制改正により、「一定の要件を満たす外部協力者」への税制適格ストック・オプションの付与が可能となりました。実際に手続きを行う場合は経済産業省のホームページなどを確認いただき、事前に専門家にご相談のうえ、手続申請を行ってください。ご参考までに2020年8月31日に配信いたしました過去のメールマガジンも記載させていただきます。
 
※下記ホームページ記載内容は令和元年度税制改正を前提としたものとなっております。
・過去の記事はこちら
 

④セーフハーバールールを適用した税制適格ストック・オプションを発行する場合の実務上の論点に関して

根拠条文:租特法29条の2第1項6号
2023年7月7日に租税特別措置法第29条の2第1項第3号における契約の締結の時における一株当たりの価額の算定方法について、明確化を図ることを目的とし、国税庁より法令解釈通達が公表されております。
従前まで、同項「新株予約権の行使に係る1株当たりの権利行使価額は、当該新株予約権に係る契約を締結した株式会社の株式の当該契約の締結の時における1株当たりの価額に相当する金額以上であること」の定めに関して、「1株当たりの価額」の明確な解釈や算定手法が示されておりませんでした。今回の見解が示されたことにより、発行会社が税務上否認されてしまうことを恐れ、必要以上に行使価額を高めに設定してしまう、その結果、本来のインセンティブ効果が損なわれる可能性が低くなりました。
 
具体的判定方法の詳細については割愛させていただきますが、7月の公表により、未上場企業においては「純資産額方式」、「配当還元方式」等の手法で評価された株価についても、「1株当たりの価額」とみなすことができる(以下、「セーフハーバールール」といいます。)旨が明示されております。
 
他方で、発行会社のご状況によっては、以下の点に留意する必要があります。
・株式酬費用の計上が必要になる可能性
税制適格ストック・オプションの発行に際して、未上場企業においては本源的価値(日本基準)の特例を利用した費用計上を選択される事例が多く見受けられます。そのような状況の中で、セーフハーバールールを基礎とした価額を権利行使価格に設定することにより、DCF法などを採用して算定した会計上の株価との差額が生じる場合は、その差額分が株式報酬費用となる可能性があります。
特に、発行会社が上場直前の場合、予期していない費用が生じる可能性がございますので、予実管理や上場時のバリエーションに影響を及ぼす可能性があることから、より慎重な検討が求められます。
 
・ステークホルダーへの説明が必要
非公開会社においては税制適格ストック・オプションを発行する場合は、株主総会での発行(取締役等に付与する場合は役員報酬の枠取り)となりますが、設定する権利行使価額が直近ラウンドの株価を下回る場合、「なぜ直近ラウンドの株価を下回った価額を権利行使価額とするのか」に関して、株主から理解が得られるような説明が必要となりそうです。また、株主との契約でストック・オプションの発行に関する取り決めがあるケースでは、そもそもセーフハーバールールを基礎とした価額を前提としていない場合も多く、従前より慎重に検討する必要がございます。
また、種類株式を発行している場合には、ストック・オプションの発行が希薄化防止条項の対象となる可能性もあるため、この点もご留意ください。
 

おわりに

令和6年度税制改正によって税制適格ストック・オプションの税制適格要件が従来よりも緩和され、さらに、セーフハーバールールを活用した税制適格ストック・オプションが発行可能となったことも相まって、多くの企業で税制適格ストック・オプションの導入を検討する機会は増えていくものと思われます。
他方で、これまでに取り上げましたように、ストック・オプションの発行検討にあたり、税制適格要件を満たすことにフォーカスしすぎてしまいますと、今後の資本政策への影響や株式報酬費用の計上など、税務以外の面に影響がでてしまうなど、多方面に影響を及ぼす可能性がございます。
 
ストック・オプション発行時に発生する論点は、会計、税務、法務、発行会社の資本政策など多岐にわたるため、税制適格ストック・オプションを含めた各種インセンティブプランのご検討にあたっては、多数の評価、インセンティブプラン導入サポートを通じたノウハウ、専門性を持った弊社でのアドバイスが可能ですので、是非ご相談をいただければと存じます。
 

 

執筆者紹介


林 俊宏 < エクイティ・アドバイザリー部 コンサルタント >
大学卒業後、SMBC日興証券にて主にストック・オプションの管理業務、上場企業の持株会運営サポートに従事。より専門的な支援を行うためプルータス・コンサルティングに入社。入社後は、幅広い企業に対してストック・オプションなどのインセンティブ・プランの設計や資本政策に関する提案を行っている。
飯田 航太 < エクイティ・アドバイザリー部 コンサルタント >
大学卒業後、みずほ証券に入社。個人・法人への資産運用コンサルティング業務等を経て、プルータス・コンサルティングに入社。現在は、ストック・オプションを用いたインセンティブ・プラン等を中心に、資本政策に関するアドバイザリー業務に携わっている。


株式会社プルータス・コンサルティング 広報担当

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