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No.
168
2024年の新規上場企業におけるストック・オプションの事例調査(2025年3月号)
今回は、2024年に上場した企業を対象に、新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)に記載された新株予約権等の内容を確認し、新規上場企業におけるストック・オプションの利用状況の調査結果をレポートにまとめました。
なお、2024年の東京証券取引所における新規上場社数は84社1)他取引所からの上場含む。テクニカル上場、およびTOKYO PRO Marketへの上場を含まない。以下同様の方法で集計を行いました。であり、2021年をピークに減少傾向が続いています。
ストック・オプション制度の利用状況
2024年の新規上場企業における、ストック・オプション制度の利用状況をまとめました。
2024年の東京証券取引所における新規上場社数84社のうち、71社がストック・オプションを利用しています。利用割合は85%で例年と同水準となりました。2)集計結果の比率については要点の把握を趣旨として、小数点以下は四捨五入の上表示しています。以下同様の方法で集計を行いました(潜在株式比率の平均値及び中央値の表示を除く)。
ストック・オプション制度の発行形態別の利用状況
2019年以降の新規上場企業における、発行形態別ストック・オプション制度の利用状況をまとめました。括弧内はストック・オプション制度を利用している企業数に対して、それぞれのストック・オプション制度を活用している企業数の割合です。
ストック・オプション制度の発行形態別の組合せ状況
集計を開始した2019年以降の新規上場企業におけるIPO時点の新株予約権を使ったインセンティブ・プランの発行形態をまとめました。
複数のストック・オプション制度を組み合わせて活用する企業が着実に増加しており、インセンティブ・プランの目的や企業と付与対象者の状況に応じて適切な発行形態が比較検討された結果、複数の発行形態を併用していることがわかります。特に、「無償+有償」のケースは20%にまで増加し、5年前と比較して2倍近くの企業が採用している結果となっています。
2025年2月に公表された経済産業省の資料「スタートアップの成長に向けたインセンティブ報酬ガイダンス」においても、スタートアップ企業におけるインセンティブ報酬制度の中心はストック・オプションであると紹介されております。その中でも、特に税制面でメリットの大きい制度として税制適格ストック・オプションや有償ストック・オプションの記述が多くみられた点は、今回の集計データから読み取れる傾向とも整合しており、実態を裏付けるものと言えるでしょう。
潜在株式比率
直近6年間の新規上場企業における潜在株式比率3)ストック・オプションを活用している企業について、有価証券報告書提出時の発行済株式総数に対する新株予約権数の割合。これに対し、発行済株式総数と新株予約権数の合計に対する新株予約権数の割合を潜在株式比率とする場合も存在します。をまとめました。2024年に上場した企業のうち、潜在株式比率が15%以上だったのは8社であり、最大値は2024年12月上場のビースタイルホールディングスの31%でした。平均値は昨年比増となり、中央値は例年とほぼ同水準となりました。
おわりに
昨年は税制適格ストック・オプションに関する以下の令和6年度税制改正があり、税制適格ストック・オプションの要件が緩和されました。下記は一部抜粋です。
- 権利行使期間の延長
設立5年未満の非上場企業が発行する税制適格ストック・オプションの権利行使期間が、「付与決議の日後15年を経過する日まで」に延長されました。研究開発型スタートアップ企業など、一定の成果を生み出すのに時間がかかる場合でも税制適格ストック・オプションを活用しやすくなりました。
- 1年あたりの権利行使総額の限度額引き上げ
設立年数等に応じて、年間の権利行使価額の限度額が引き上げられました。レイター期以降の企業であっても、より魅力的なインセンティブを提供できるようになりました。
設立5年未満の株式会社:上限2,400万円/年
設立5年以上20年未満の株式会社(上場企業の場合、上場の日以後の期間が5年未満のものに限る):上限3,600万円/年
- 権利行使により交付される株式の保管委託要件の緩和
権利行使により交付される譲渡制限株式について、発行会社が所定の方法で管理する場合には、証券会社等への株式の保管委託が不要となりました。非上場段階での権利行使に伴う事務手続きが簡素化されました。
また、2024年9月を法案施行日として「新たな事業の創出及び産業への投資を促進するための産業競争力強化法等の一部を改正する法律」により、特例的にスタートアップ企業がストック・オプションを柔軟かつ機動的に発行できるストックオプション・プール制度が設けられました。
- ストックオプション・プール制度
制度を活用し、株主総会で決定した事項を取締役会に委任することで、ストック・オプションの発行手続きを迅速化できます。企業は従業員の入社時期や貢献度合いに応じて柔軟かつ機動的にストック・オプションを発行し、優秀な人材の獲得や従業員のモチベーション向上に繋げることができます。
近年の税制要件緩和や優遇措置が追い風となり、非上場企業においてもストック・オプションへの関心は年々増加の一途を辿っています。しかしながら、成長ステージやIPO及びM&Aを見据えた出口戦略、報酬制度への考え方は各社各様であるため、唯一の正解があるというものでもありません。さらに、ストック・オプションを有効に活用するには、税務、会計基準、会社法などの最新の情報を総合的に勘案する必要があります。ご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
なお、弊社では、2024年に新規上場した84社すべての有価証券報告書を集計し、各社ごとのデータベースを保有しています。上記以外の詳細なデータについてお知りになりたい方はお問合せフォームよりご連絡ください。
執筆者紹介
川端 一平 < エクイティ・アドバイザリー部 コンサルタント >
大学を卒業後、プルータス・コンサルティングに入社。ストックオプションを用いたインセンティブ・プランを中心として、スタートアップ企業から上場企業まで幅広い企業を対象に資本政策に関するアドバイザリー業務に従事している。
株式会社プルータス・コンサルティング 広報担当
〒100-6035 東京都千代田区霞が関3-2-5 霞が関ビルディング35階
TEL:03-3591-8123
※ 本メールは、プルータス・コンサルティング社員が名刺交換および面談させて頂いた皆様にお送りしております。配信停止のご希望は こちら から承ります。
References
1. | ↑ | 他取引所からの上場含む。テクニカル上場、およびTOKYO PRO Marketへの上場を含まない。以下同様の方法で集計を行いました。 |
2. | ↑ | 集計結果の比率については要点の把握を趣旨として、小数点以下は四捨五入の上表示しています。以下同様の方法で集計を行いました(潜在株式比率の平均値及び中央値の表示を除く)。 |
3. | ↑ | ストック・オプションを活用している企業について、有価証券報告書提出時の発行済株式総数に対する新株予約権数の割合。これに対し、発行済株式総数と新株予約権数の合計に対する新株予約権数の割合を潜在株式比率とする場合も存在します。 |
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