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No.
157
「資本コスト経営」の視点で読み解く継続価値(2024年5月31日号)
Topic. ► 「資本コスト経営」の視点で読み解く継続価値
1. 本稿の目的
DCF法では、合理的に予測可能な期間の業績に基づいて各期のフリー・キャッシュ・フローを求めるとともに、それ以降の期間については利益が毎期定率で成長するという仮定に基づき継続価値を算定し、それぞれの割引現在価値を集計することにより価値が算定されます。このとき、毎期一定の成長率を永久成長率といいます。
実務において、永久成長率は多くの場合0%を中心としたごく狭い範囲に設定されますが、少なくとも物価上昇率程度の成長率を見込むべきだとする主張もあり、物価高が顕著な昨今においては、永久成長率を0%に設定することの合理性が取り沙汰される場面も増えてきました。
しかしながら、評価対象会社のオーガニックな成長性を反映するという観点で捉えると、成長が価値創造に寄与するかどうかは資本コストを上回る利益率を永続的に達成できるかどうかに依存するため、表面上の成長率だけを捉えてその当否を論じることに意義はありません。
本稿では、昨今注目を集める「資本コストや株価を意識した経営」の視点も採り入れつつ、継続価値と成長率の関係について再検討します。
2. 永久成長率法による継続価値の算定
永久成長率法とは、利益が毎期定率で成長するという仮定に基づき継続価値を算定する方法です。まず、毎期一定の税引後営業利益NOPLATが永久に発生し続ける場合、その割引現在価値PVは、等比数列の和の公式を利用することにより、次式のようにNOPLATを加重平均資本コストWACCで還元した額となります。
ここで、毎期一定の成長率gを考慮すると、やはり等比数列の和の公式を利用することにより、[1]式は次式のように修正されます。
しかしながら、いわゆるオーガニックな成長性を価値に反映させるという観点で捉えると、利益がそのまま成長していくという想定は実態から乖離しています。例えば、事業計画上高い成長が見込まれる場合は、減価償却費を上回る資本的支出が行われたり、運転資本が大きく増えたりすることによって、先行投資が続く想定となるのが通常です。その結果、投資家に分配可能なフリー・キャッシュ・フローは、その基礎となるNOPLATより小さくなる傾向にあります。このことから分かるのは、将来における利益の成長が、今期獲得した利益の一部を事業用資産に再投資することによってもたらされるという関係です。このような関係を考慮すると、[2]式は次のように修正され、これをバリュードライバー式といいます。
[2]式と[3]式の違いは、分子のNOPLATに一定の割合が乗じられていることです。ここでRONICとは、Return on Newly Invested Capitalの頭文字を取ったもので、追加的な投資1単位からもたらされる投下資本利益率を意味します。永久成長率gをRONICで除しているのは、その成長率を実現するために、NOPLATのうちどれだけの割合を再投資すべきかを求める必要があるからです。
例えば、永久成長率を2%に設定する場合、RONICが8%だったとすれば、NOPLATの25%を再投資すべきということになります。NOPLATを新たに1円再投資すると、それに対してRONIC8%に相当する利益がもたらされるため、2%成長させるためには、NOPLAT1円につき0.25円再投資すればよいということです。
・・・続く
執筆者紹介
明石 正道 < フィナンシャル・アドバイザリー部 エグゼクティブ・リサーチャー / 京都大学 経営管理大学院 研究員 >
一人旅を愛し、道中の顛末をblogに綴って十余年を重ねる。培われた文章表現を活かし「企業価値評価の実務Q&A」の執筆を初版から一貫して担当する。データ配信サービスValue Proの開発にも携わり、資本コストの算定に造詣が深い。
株式会社プルータス・コンサルティング 広報担当
〒100-6035 東京都千代田区霞が関3-2-5 霞が関ビルディング35階
TEL:03-3591-8123
※ 本メールは、プルータス・コンサルティング社員が名刺交換および面談させて頂いた皆様にお送りしております。配信停止のご希望は こちら から承ります。
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