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160
公正なM&A指針公表後5年間における特別委員会/フェアネス・オピニオン実務の変化(2024年07月31日号)
Topic. ► 公正なM&A指針公表後5年間における特別委員会/フェアネス・オピニオン実務の変化
「公正なM&Aの在り方に関する指針」が公表され5年が経過しました。そこで昨年7月に行った事例調査を更新し、特別委員会及びフェアネス・オピニオンの実務が実際に変化しているかを改めて分析しました。
1. 公正なM&Aの在り方に関する指針公表後における実務変化
公正なM&A指針公表によりMBO及び親子上場会社における公正性担保措置に関する望ましいプラクティスの在り方が指針化されて以降、実務が実際に変化したかを昨年2023年7月にも調査を実施しました。その調査では、公正なM&A指針公表後(2019年6月28日以降)において特別委員会実務やフェアネス・オピニオン実務が実際に変化しているとの調査結果が得られました。本分析はその後の1年間を追跡調査し、指針公表後5年が経過した現在の状況から今後の動向への示唆を検討するものです。
本分析では、日本国内の全株式市場に上場する企業によるTOB事例における「特別委員会の構成員」「アドバイザーの起用の有無」「フェアネス・オピニオンの取得の有無」について調査し、事例ごとに一覧でご確認いただけるよう、集計を行いました。
➀ 特別委員会の構成員
指針では、特別委員会の構成は『ベストプラクティスとしては、特別委員会は、委員として最も適任である社外取締役のみで構成し、M&Aに関する専門性は、アドバイザーから専門的助言を得ること等によって補うという形態が最も望ましい』とされています。
➁ フェアネス・オピニオン
独立第三者の専門機関が、想定される取引価格に対して公正性に関する意見を表明するフェアネス・オピニオンについて、『具体的な取引条件の対象会社の一般株主にとっての公正性であるという点において、株式価値算定書とは異なるものであり、対象会社の価値に関するより直接的で重要性の高い参考情報となり得るため、取引条件の形成過程において構造的な利益相反の問題および情報の非対称性の問題に対応する上でより有効な機能を有し得る』とされています。
フェアネス・オピニオンを取得する実務は欧米では一般的であり、海外機関投資家からすると日本では取得されないことに対して違和感を持たれるとの声もあります。フェアネス・オピニオン実務のさらなる活用が期待されています。
2. 事例調査
指針公表後5年間において支配株主によるTOB事例は139件でした。 今回も①-1 特別委員会の構成員、①-2 アドバイザーの起用、②フェアネス・オピニオンの取得 に焦点を当ててまとめています。
※1 取:社外取締役、監:社外監査役、弁:弁護士、会:会計士、金:金融機関出身者、有:その他有識者
数字は人数を示す
※2 FA:フィナンシャルアドバイザー、LA:リーガルアドバイザー 有:
※3 フェアネス列は取得主体を示す
※4 太枠内:前回から追加した事例
今回の調査期間(2023年7月1日~2024年6月30日)において、支配株主によるTOB案件の傾向を分析
✓ 支配株主によるTOBは31件で前回調査対比+10件となり大幅に増加
✓ 対象会社の属する市場別では、スタンダードが17件・プライムが11件・グロースが3件
3. まとめ
本執筆時点の公表事例139件を分析したところ以下の傾向が見受けられました。
➀-1 特別委員会の構成員
指針に準拠して社外役員を委員に起用した事例は139件中131件でした。
➀-2 アドバイザーの起用
指針公表前は委員会がアドバイザーを別途起用する事例は極めて稀でした。指針公表後においては139件中33件の事例で委員会が別途アドバイザーを起用していました。
なお、指針公表後5年目(2023年7月1日~2024年6月30日)における委員会がアドバイザーを別途起用した事例については、全ての事例でファイナンシャル・アドバイザー又は第三者算定機関が起用され、公開買付けに係る協議・交渉を行う体制を構築していました。
また、本調査期間での支配株主によるTOB事例において、委員会によるアドバイザー起用件数は6件であり、その内3件において弊社プルータス・コンサルティングが起用されています。
➁ フェアネス・オピニオン
指針公表後においては26件の事例においてフェアネス・オピニオンが合計33件取得されています。
上記①-2及び②から、一定規模の取引や株主に海外投資家が含まれるケースなど、より慎重なプロセスの検討が必要となる事例においては、多くのケースで「アドバイザーの起用」若しくは「フェアネス・オピニオンの取得」がなされることが推察されます。
一方で、MBO及び支配株主による従属会社の買収以外のM&A(非支配株主によるTOB)においても、同様に「アドバイザーの起用」若しくは「フェアネス・オピニオンの取得」がなされるケースも指針公表後増加傾向にあります。この傾向は今年も継続しており、当該M&A指針に規定する対象を超えて、広くTOBに係わる案件全般において特別委員会設置をはじめとする公正性担保措置の履行が一般的な実務となりつつあると考えられます。
<ご参考>
4. おわりに
今回の調査を通じて、公正M&A指針後の特別委員会実務における変化は、前回の調査対象である指針公表後4年間に引き続き、継続拡大していることを確認することができました。委員会がアドバイザーを起用した事例(①-2)、若しくはフェアネス・オピニオンが取得された事例(②)という観点でいえば139件中33件が該当しますが、弊社ではこのような事案の約半数に関与している結果となっています。
当該M&A指針公表以降の5年間における上場企業を取り巻く環境の変化にもいくつかの注目すべき点があります。その一つとして、東京証券取引所による市場区分の再編に伴う上場維持基準の厳格化が挙げられます。維持基準には流通株式時価総額という項目が設けられ、株価及び株主構成についても適合が求められるようになり、上場維持基準をきっかけとした非公開化の流れが今後更に本格化する事も予想されます。斯かる状況下、非公開化が増えていく中で株主であるアクティビスト等とTOB価格を巡り紛争に発展するケースも顕在化しており、以前にも増して「公正性担保措置」のプロセスを踏まえる事が非常に重要であると認識しております。
弊社と致しましては、フェアネス・オピニオン業務のパイオニアとして公正なプロセスに係る実務形成に一段と貢献できるよう取り組んで参ります。
執筆者紹介
新卒から約7年間野村證券株式会社にて勤務後、株式会社日本M&Aセンターに同じく約7年間在籍。
一貫して「有価証券」を巡るディールを経験した後当社へ。実体験で得たケーススタディやノウハウを生かし、現在はIPO・M&A・その他資本政策のソリューション提案を行う。大阪府出身。
細田 宏 < コンサルティング部 マネジャー >
SMBC日興証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券を経てプルータス・コンサルティングに入社。前職では、上場企業や金融機関の総合RMとして資金調達のオリジネーション業務に従事。
現在は、企業価値評価・資金調達(CB、ワラント)・インセンティブプランのコンサルティング業務を手掛ける。
石坂 和征 < フィナンシャル・アドバイザリー部 シニア・マネジャー >
早稲田大学卒業後、証券会社を経て、プルータス・コンサルティングに入社。上場会社同士のM&Aに対するフィナンシャル・アドバイザーを担当するほか、大手企業からベンチャー企業まで様々なフェーズの資本政策関連のアドバイザリー業務及びバリュエーション業務に従事し、多数の案件を手掛ける。
藤江 優貴 < フィナンシャル・アドバイザリー部 マネジャー >
大学卒業後、SMBC日興証券を経て、プルータス・コンサルティングに入社。
現在はバリュエーション業務を中心に、上場企業同士のM&Aにおけるフィナンシャル・アドバイザリー業務を担当。
株式会社プルータス・コンサルティング 広報担当
〒100-6035 東京都千代田区霞が関3-2-5 霞が関ビルディング35階
TEL:03-3591-8123
※ 本メールは、プルータス・コンサルティング社員が名刺交換および面談させて頂いた皆様にお送りしております。配信停止のご希望は こちら から承ります。
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