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M&A・組織再編

No.
148

株式交付制度公表事例による株価算定手法分析等の追跡調査(2023年08月31日号)

Topic. ► 株式交付制度公表事例による株価算定手法分析等の追跡調査


株式交付制度が導入され約2年半が経過し、前回の2021年9月30日のレポートから約2年経過しましたので、株式交付制度公表事例について追跡調査しました。前回のレポートも振り返りながら、今回の追跡調査で考察したことをレポートします。
 
株式交付とは、ある会社を子会社とする際にその株主から当該会社の株式を譲り受け、対価として自社の株式等を交付する会社法における組織再編行為です。
従来から存在していた”株式交換”は、ある会社を”完全”子会社化する組織再編行為であるのに対し、株式交付では完全子会社化に限らず、広く子会社化に用いることができるため「部分的な株式交換」とも呼ばれています。
簡潔にいうと、キャッシュアウトせずに部分的なM&Aが実現できる制度といえます。
 
株式交付制度は、2021年3月1日に施行された改正会社法により新たに導入されました。
続けて、2021年4月1日に株式交付に係る税制改正を含む所得税法等の一部を改正する法律が施行され、株式交付により対価の交付を受ける株主の譲渡益については一定の場合において課税繰延べが認められました。

  

1. 今回の追跡調査レポートの内容

上記の改正により株式交付を実務で用いることが現実的となり約2年半が経過した中で、株式交付制度を活用した上場会社による組織再編事例16件の公表が確認されています(本稿執筆時点)。
株式交付制度を活用した組織再編ニーズは今後も高まっていくことが想定されるため、特に実際の実務で焦点となる株式交付事例における株式価値算定について分析及び検討を行います。

2.公表事例による株式価値算定手法の分析及び検討

以下の表は本稿執筆時点における株式交付の公表事例と各事例における算定手法、株式交付において交付される株式交付親会社の希薄化率(交付株式数÷発行済株式数)を列記したものです。なお、緑枠内が今回追加した事例になります。

 

   出所:各社プレスリリースをもとに弊社作成
 
 

3.今回の追跡調査の結果と考察

(1)株式交付制度活用の目的の考察
各社プレスリリースから株式交付制度を活用した目的を推察すると、キャッシュアウトなく企業の部分買収ができることの他に、
①非上場会社の買収において既存株主(経営株主等)のコミットを継続するため
②上場企業におけるグループ内組織再編の手段として活用するため
③税務メリット(子会社株主や子会社における課税繰延のメリット等)を享受するため

等が考えられます。これらのニーズがある企業においては、株式交付制度を活用することを検討してみてはいかがでしょうか。
 

(2)特別委員会が設置された事例の登場
今回追加された事例のうち、利益相反性があることにより特別委員会が設置された事例が3件あり、注目されるところです。
各社プレスリリースより、どのように利益相反性の有無を検討し特別委員会を設置したかが伺えますので、参考にしてはいかがでしょうか。
株式交付制度を活用する際に利益相反性がある場合には、公正性担保措置として特別委員会の設置が検討され、より慎重なプロセスが求められます。
 
①株式会社ソフトフロントホールディングスによる株式会社サイト・パブリスの子会社化
本件プレスリリースによると、「本件取引は、東京証券取引所の企業行動規範に定める「支配株主との重要な取引等」には該当しないものの、本株式交付において譲渡人となるデジタルフォルン及びその同じ資本グループである株式会社オセアグループが、2021年3月31日時点でそれぞれ 1,428,600 株(持株比率5.18%)及び 1,270,000 株(持株比率 4.60%)の当社株式を保有しており、また、当社の取締役7名のうち4名がデジタルフォルン若しくはオセアグループ又はこれらの関連会社の役職員を兼務若しくは兼務をしていたこと等に鑑み、本件取引の公正性を担保するための措置として、」「特別委員会の設置及び意見書の取得」をしたとのことです。
 
②Oakキャピタル株式会社による株式会社ユニヴァ・フュージョンの子会社化
本件プレスリリースによると、「株式会社ユニヴァ・キャピタル・ファイナンス(以下「ユニヴァ・キャピタル・ファイナンス」といいます。)は当社の支配株主ではないため、本株式交付は、当社にとって、東京証券取引所の定める有価証券上場規程第441条の2における「支配株主との重要な取引等」には該当いたしません。しかしながら、当社の代表取締役である稲葉秀二氏が、ユニヴァ・フュージョンの取締役、ユニヴァ・フュージョンの完全親会社であるユニヴァ・キャピタル・ファイナンスの取締役及びユニヴァ・キャピタル・ファイナンスの完全親会社であるUNIVA CAPITAL Holdings LimitedのCEOを兼任するとともに、UNIVA CAPITAL Holdings Limitedの49%を保有する株主でもあることから、当社といたしましては、本株式交付に係る意思決定については一定の構造的な利益相反関係があり、本株式交付の公正性を担保する必要があると判断すべき事情があると考えたため、」「利益相反を回避するための措置」として「当社における独立した特別委員会の設置及び答申書の取得」をしたとのことです。
 
③B ホールディングス株式会社によるPayPay株式会社の子会社化
Zホールディングス株式会社の本件プレスリリースによると、「当社は、ソフトバンクが当社の親会社であり、本株式交付による PayPay の連結子会社化は、東京証券取引所の有価証券上場規程に定められる支配株主との重要な取引等に該当するため、少数株主の不利益となるような取引とならないよう公正性を担保するための措置及び利益相反を回避するための措置」として、「ガバナンス委員会から、2022年7月25日付で、本株式交付を実施することによって当社がPayPayを連結子会社化することについての決定は、当社の少数株主にとって不利益なものではないと判断する旨の答申書を入手しております。」とのことです。

※筆者注 ガバナンス委員会とは常設の特別委員会と考えて差し支えないものと思われます。
 

今後このような実務が増加することも考えられ、公正なM&A指針に則り公正性担保措置を講じるにあたり、対象会社または特別委員会の委嘱を受けたファイナンシャル・アドバイザーや第三者算定機関の選定がより重要になるものと考えられます。

 
(3)株式価値算定について
上記の事例について、株式交付親会社の算定ではいずれも市場株価法が採用されています。
これは株式交付親会社がいずれも上場会社であったことに加え、株式交付親会社が株式を交付することによる希薄化率、すなわち、親会社側での既存株主への影響度も加味されて考えられたものと推測されます。上記の事例の希薄化率は1桁%かそれ以下が大半である一方、一部2桁%の事例もあります。


企業価値評価は原則として収益性、市場性等を多角的に検討する必要があります。
しかしながら、交付される株式数が比較的多くなく、市場での売却による市場株価相場での換金可能性が高いと認められる場合であって、親会社側での既存株主への影響も同様に高くない場合には市場株価法のみの単独採用による算定も実務上多くみられるところです。


また、このような取扱いは企業価値評価理論上はあくまで例外的と考えられ、希薄化率の小さくない過去の”株式交換”事例においては原則に則りDCF法や類似会社比較法が併用されています。

そのため、上記のような観点に照らして例外に該当するとして整理可能かについては慎重に検討を行った上で、関係各者の十分な理解を得た上で手法を決定する必要があると考えられます。
株式交付子会社側の算定については原則に従ってDCF法や類似会社比較法等が採用されています。

 

4.おわりに

今回の追跡調査において、株式交付制度は様々な目的で活用されていることや、株式対価でかつ課税繰延メリットを享受することができる便利な手法であることが改めて確認できました。
一方、利益相反性のある株式交付取引については、公正性を担保する措置として特別委員会の設置が有効であり、株式価値算定についてはより慎重に検討する必要があるものと考えられます。これらの点に留意しつつ、今後より株式交付制度が活用されることが期待されます。

 

執筆者紹介


阿部 巧 < フィナンシャル・アドバイザリー部 マネジャー 米国公認会計士>
大手生命保険会社、東証一部上場の事業会社を経て、プルータス・コンサルティングに入社。事業会社では、M&A、IR、法務、内部監査などに従事。現在はバリュエーション業務を中心に、M&A及び会計関連のアドバイザリー業務を担当。


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