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127
株式交付制度公表事例による株価算定手法分析(2021年9月30日号)
Topic. ► 株式交付制度公表事例による株価算定手法分析
1.株式交付制度事例の検討レポート
2021年3月1日に施行された改正会社法により、株式交付制度が新たに導入されました。続けて、2021年4月1日に株式交付に係る税制改正を含む所得税法等の一部を改正する法律が施行され、株式交付により対価の交付を受ける株主の譲渡益については一定の場合において課税繰延べが認められました。これらの改正により株式交付を実務で用いることが現実的となり約半年が経過した中で、制度を活用した上場会社による組織再編事例が4件公表されています。株式交付制度を活用した組織再編ニーズは今後も高まっていくことが想定されるため、特に実際の実務で焦点となる株式交付事例における株式価値算定について分析、検討を行います。
2.株式交付とは?
株式交付とは、ある会社を子会社とする際に、その株主から当該会社の株式を譲り受け、対価として自社の株式等を交付する会社法における組織再編行為です。
従来から存在していた”株式交換”は、ある会社を”完全”子会社化する組織再編行為であるのに対し、株式交付では完全子会社化に限らず、広く子会社化に用いることができるため「部分的な株式交換」とも呼ばれています。
株式交付制度導入以前においても、買収対象会社の株主に対して第三者割当増資を行って買収者側の株式を割り当て、その払い込みとして買収対象会社の株式を現物出資させる方法により同様の効果を得ることができました。しかし、現物出資を行う場合、現物出資財産に対する厳格な規制(裁判所選任による検査役の調査、財産評価証明、財産価格補填責任等)という障害があったため、実務上ほとんど用いられてきませんでした。
以上から、組織再編制度の中で、部分的な株式交換制度といえる株式交付制度が導入されるに至りました。
3.公表事例による算定手法
以下の表は本稿執筆時点における株式交付の公表事例と各事例における算定手法、株式交付において交付される株式交付親会社の希薄化率(交付株式数÷発行済株式数)を列記したものです。
出所:各社プレスリリースをもとに弊社作成
4.株式価値算定方法の検討、考察
4つの事例について、株式交付親会社の算定ではいずれも市場株価法が採用されています。これは株式交付親会社がいずれも上場会社であったことに加え、株式交付親会社が株式を交付することによる希薄化率、すなわち、親会社側での既存株主への影響度も加味されて考えられたものと推測されます。表のとおり4つの事例の希薄化率はいずれも1桁台かそれ未満です。企業価値評価は原則として収益性、市場性等を多角的に検討する必要があります。しかしながら、交付される株式数が比較的多くなく、市場での売却による市場株価相場での換金可能性が高いと認められる場合であって、親会社側での既存株主への影響も同様に高くない場合には市場株価法のみの単独採用による算定も実務上多くみられるところです。
しかし、このような取扱いは企業価値評価理論上はあくまで例外的と考えられ、希薄化率の小さくない過去の”株式交換”事例においては原則どおりDCF法や類似会社比較法も併用されています。そのため、上記のような観点に照らして例外に該当するとして整理可能かについては慎重に検討を行い、関係各者の十分な理解を得た上で手法を決定する必要があると考えられます。株式交付子会社側の算定については原則に従ってDCF法や類似会社比較法が採用されています。
5.おわりに
株式交付制度はM&Aによる子会社化における新しい便利な制度です。
一方では、現物出資に関する規制が省略されながら基本的に新株が発行される制度ですから、既存株主に対する影響が大きく生じ得ます。その適正性は発行される株式の価値、取得する株式の価値の両方が公正価値であることによって初めて担保されることとなるため、株式価値算定がより重要視される取引と考えられます。
執筆者紹介
阿部 巧 < フィナンシャル・アドバイザリー部 コンサルタント 米国公認会計士 >
大手生命保険会社、東証一部上場の事業会社を経て、プルータス・コンサルティングに入社。事業会社では、M&A、IR、法務、内部監査などに従事。現在はバリュエーション業務を中心に、M&A及び会計関連のアドバイザリー業務を担当。
株式会社プルータス・コンサルティング 広報担当
〒100-6035 東京都千代田区霞が関3-2-5 霞が関ビルディング35階
TEL:03-3591-8123
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