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No.
33
ベンチャー企業は、安い株価で ストック・オプションを発行できる?
Ⅰ. 経産省の種類株式に関する報告書
経済産業省が昨年11月に公表した「未上場企業が発行する種類株式に関する報告書」(未上場企業が発行する種類株式に関する研究会)を読んだ方々から、「ベンチャー・キャピタル(VC)が引受けた価格よりも安い株価をベースにしてストック・オプションを発行できると聞いたが本当か?」という問い合わせを受けることが増えてきた。
この報告書によると、VCが引受ける種類株式の価値は、普通株式よりも一定程度高い価値を持つため、ストック・オプションの権利行使価格は、種類株式の発行価格よりも低く抑えることができるメリットがあると解説している(仮に種類株式の発行価格が10万円、普通株式価値が1万円であるなら、権利行使価格は1万円となる)。種類株式と普通株式とは、その経済的権利(自益権)に違いがあり価値が異なるのは自明の理であり、当然のことを確認しているかのように見える。
Ⅱ. 米国の10倍ルールとは
この報告書における経済産業省の意図は、米国における「普通株式価値を、直近の種類株式の発行価格の10分の1以下とする慣習(いわゆる10倍ルール)」を、我が国でも普及させたいところにある。この慣習が認められることによって、権利行使価格(=発行時の普通株式の時価)を、直近の種類株式(種類株式)の発行価格の10分の1とするストック・オプションでも税制適格要件を充たすことができ、ストック・オプションを取得した役職員は、多額のキャピタル・ゲインを得ることができる。
しかし、10倍ルールをストレートに認めることに疑問が持たれ、現在では、普通株式及び種類株式の評価につき、合理的に説明可能な評価手法の確立が必要と考えられ、第三者の独立評価を得るケースや、自社内での株式評価に知見のある者による株式評価に関する書面を残しておくという実務が行われているとのことである。
Ⅲ. 合併等をExitとする場合のVCの優先分配権
米国のVCが投資する種類株式には、合併等による投資回収(Exit)がなされる場合、IPO時に普通株式へ転換しExitする場合よりも数倍の利益が得られる権利(合併等等による対価の優先分配権)を付されていることが一般的である。我が国でもこのような種類株式を発行することで10倍ルールを定着させることに経済産業省の意図があると思われる。
しかしながら、米国の種類株式に、この条件のみで10倍の格差が生じる程の優先分配権は一般に設定されておらず、評価に反映し難い他の要素(議決権等)も考慮し評価されているものと思われる。現状では、我が国において、安い株価でストック・オプションを発行できる道を切り開くには、種類株式の評価に対するコンセンサス(議決権の評価等)を図る必要がある等、様々な課題が残されており、冒頭の問い合わせに適うストック・オプションの発行は難しいのである。しかし、優先分配権以外の条件も付加することで10倍ルールに近い格差を実現させる可能性もあり得ることから、今後、10倍ルールを裏付ける付加条件を検討することが現実的な実務の課題であると考える。
以上



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