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紛争・裁判

No.
55

会社法改正により変化するキャッシュ・アウト実務

 

1. はじめに

昨年の11月29日に国会に法案が提出された、「会社法の一部を改正する法律」及び「会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(以下、上記二法を総称して、「改正会社法」という。)が、平成26年6月20日の第186回通常国会において成立した。これは、「会社法制の見直しに関する要綱」が平成24年9月7日に法制審議会会社法制部会によって決定されて以来、約2年の歳月を要し、ようやく成立したものである。改正会社法は、社外取締役制度の見通しや監査等委員会設置会社制度の導入をはじめとする「企業統治のあり方」と「親子会社に関する規律」の見直しがメインテーマとなっているが、従来からのキャッシュ・アウト1)キャッシュ・アウトとは、現金を対価とする少数株主の締め出しのことをいう。 実務に多大な影響を与える可能性があるものを多く含んでいる。すなわち、本邦における従来のキャッシュ・アウト実務においては、キャッシュ・アウトの手法として全部取得条項付種類株式または組織再編(現金対価の合併または株式交換)を用いる方法が多勢を占めていたが、今回改正会社法に導入された特別支配株主による株式等売渡請求制度などによって、本邦でのキャッシュ・アウト実務の潮流に変化が生じる可能性がある。本稿では、従来のキャッシュ・アウト実務を改めて解説するとともに、改正会社法に新設された特別支配株主による株式等売渡請求制度及び関連条項が追加された各種キャッシュ・アウト法制が本邦のキャッシュ・アウト実務に与える影響を検討するとともに、今後の本邦におけるキャッシュ・アウト実務の潮流について考察する。

2. 従前のキャッシュ・アウト実務

2. 1 従来からのキャッシュ・アウト方法

上場会社等の全株式を取得し完全子会社化するためには、公開買付け(以下、「TOB」という。)により一定数以上の対象会社株式を取得した上で、当該TOBに応募しなかった少数株主の保有する対象会社株式を強制的に取得し、キャッシュ・アウトを達成させるという手順により行われるのが一般的である。現状、キャッシュ・アウトの手法としては、現金を対価とする株式交換等も考えられるが、その場合には税制適格組織再編に該当せず、被取得会社の資産負債が時価評価され、課税が生じる可能性があることから、多くの事案においては、全部取得条項付種類株式を利用した手法が用いられている。
従来の実務においては、TOBから全部取得条項付種類株式への定款変更並びに全部取得条項種類株式の取得、及び裁判所の株式売却許可並びに1株未満株主への売却代金の交付というキャッシュ・アウトの完了まで概ね5ヶ月ないし7ヶ月を要することとなり、キャッシュ・アウトを短期間で行うことは困難であった。

2. 2 キャッシュ・アウトに潜む問題点

平成18年施行の会社法は全部取得条項付種類株式の規定を設けたことにより、キャッシュ・アウトが行いやすくなった。しかし、キャッシュ・アウトは、大株主が少数株主に金銭等を交付した上で強制的に追い出す制度であるから、議決権を保持したい少数株主や将来の株価上昇への期待を持っている少数株主との間での紛争の可能性が内在している。実際に紛争に発展するケースは、価格が問題となることがほとんどで、株式取得の対価として交付した金銭の額が「公正な価格」であるかといえるかについて当事者間で協議し、まとまらなければ裁判所に決定を求めることとなる。裁判所の決定を求めるとなると、更にキャッシュ・アウトを短期間で行うことは困難となってしまう。今回の改正会社法によって新設される株式等売渡請求制度や新たに株主に株式買取請求権が与えられる株式併合においても、上記と同様の問題が存在すると考えられる。

3. 改正会社法により変化するキャッシュ・アウト手法

3. 1 特別支配株主の株式等売渡請求

改正会社法により、キャッシュ・アウトの選択肢に特別支配株主による株式等売渡請求制度が追加された。上述のように、従来一般的に用いられていた全部取得条項付種類株式による方法によると、株主総会の開催が避けられないことから、キャッシュ・アウトを行うために必要な時間的・手続的なコストが少なくなかった。また、TOBが実施されてからキャッシュ・アウトが完了し少数株主に対価としての金銭が支払われるまでの期間が長期に渡るため、その間TOBに応募しない株主は長時間不安定な地位におかれることから、TOBの強圧性が高まるという懸念2)水野・西本「ゴーイング・プライベート(非公開化)のすべて」194頁があった。今回の特別支配株主による株式等売渡請求制度が導入されることにより、キャッシュ・アウトを行うために必要な時間的・手続的コストが軽減されることが期待される。
特別支配株主の株式等売渡請求制度とは、ある株式会社の総株主の議決権の10分の9以上を有している株主(以下、「特別支配株主」という。)は、会社と特別支配株主を除く全ての株主に対し、その有する当該株式会社の株式等を特別支配株主に直接売り渡すことを請求することができる制度である。この手続きには、対象会社の株主総会は必要なく、実務上5ヵ月から7ヶ月程度を要していたTOB後のキャッシュ・アウトは、事前準備を前提に約1ヵ月で完了することになる。
本制度は、株主が他の株主に対して直接強制的に株式を売り渡すことを請求できる本邦では画期的な制度である一方で、売渡請求を行なうためには対象取締役会の承認を必要とすることにより、売渡株主の利益が不当に害されることが無いよう、チェック機能が設けられている。取締役会の判断は、金銭の額の相当性に関する事項(当該事項に関する取締役会の判断及びその理由等)、売渡株主(少数株主)の利益を害さないように留意した事項(第三者機関による株式価値の評価や社外取締役等の意見等)を株主への通知または公告に記載することにより開示される。

3. 2 株式の併合

従来、株式の併合については、会社側が端数の合計数に相当する数の株式を競売し、かつ、その端数に応じてその競売により得られた代金を株主に交付しなければならないとされているのみで(会社法235条1項)、端数の株式を持つ株主について、組織再編等で認められている反対株主の買取請求は認められていなかった。その結果、株式の併合が大株主により少数株主の保有する株式を端数にして少数株主を追い出す目的で利用されるような場合には、特別利害関係人(すなわち大株主)の議決権行使による著しく不当な決議が行われたものとして、決議取消請求が認められてしまうおそれがあった(会社法831条1項3号)。3)江頭憲治郎「株式会社法(第4版)」270頁、伊藤・大杉他「会社法」122頁そのため、株式の併合を用いたキャッシュ・アウトは実務上用いることができなかった。また、端数処理の段階においても、市場価格の下落や売却先の選定が困難となることなどにより適切な対価が交付されないという問題点があった。これらの問題点を克服するため、改正会社法では株式併合制度についても改正が行われた。
成立した改正会社法によると、株式の併合に関し、主に次の3点が変更される。
①株式の併合をする株式会社に一定の事項を記載した書類の事前・事後の備置による開示の義務付け
②法令・定款違反及び株主が不利益を受けるおそれを理由とする株式併合の差止請求制度の新設
③端数となる反対株主による端数株式の公正な価額での買取請求権の新設

①については、株式の併合の決定に係る株主総会の決議が必要となる事項(ⅰ併合の割合、ⅱ株式の併合の効力発生日、ⅲ株式会社が種類株式発行会社である場合には、併合する株式の種類、ⅳ効力発生日における発行可能株式総数)及び法務省令で定める事項(現段階では未定)の開示が求められるようになった。②の差止事由については、短時間で審理が可能な単純な手続違背等に限定され、著しく不当であることは差止事由とならないと解されている。4)西村高等法務研究所「会社法改正要綱の論点と実務対応」81頁5)会社法制部会第12回会議(2011年8月31日開催)議事録40頁等
今回の改正による②③の制度の創設により、少数株主には最も重要な関心事である価額の妥当性を争う機会が与えられることとなる。そのため、株式の併合を行う取締役会としては、他のキャッシュ・アウト手法と同様、株式の併合によるキャッシュ・アウトを実施する場合、独立した第三者算定機関から株式価値算定書やフェアネス・オピニオンを取得した上で、これを参考として意思決定を行なうプロセスを踏むことが求められることとなるものと考えられる。

3. 3 全部取得条項付種類株式

従前、本邦のキャッシュ・アウト実務の多勢を占めていた全部取得条項付種類株式の取得に関しても、上述の株式の併合と同様に、少数株主の保護等の観点から以下のような改正が行われた。成立した改正会社法によると、全部取得条項付種類株式に関し、主に次の4点が変更される。
①全部取得条項付種類株式の取得に関する一定の事項を記載した書類の事前・事後備置による開示の義務付け
②会社法上の手続違反等の法令・定款違反及び株主が不利益を受けるおそれを理由とする全部取得条項付種類株式の差止請求制度の新設
③全部取得条項付種類株式の取得価格決定の申立て期間の変更
④取得価格決定申立て株主への全部取得条項付種類株式の取得対価の不交付

①②については、株式の併合と同様の手当てがなされた。③については、従来、全部取得条項付種類株式の取得価格決定の申立て期間は、「株主総会の日から二十日以内」(会社法172条1項)とされていたが、改正会社法によって「取得日の二十日前の日から取得日の前日までの間」と変更された。
今回の改正によって、株式の併合と同様、②の制度の創設により、少数株主が当該キャッシュ・アウトに関し争う機会が増えることとなる。また、後述するように④への変更により、現状、本邦のキャッシュ・アウト実務の多勢を占めている全部取得条項付種類株式を用いたキャッシュ・アウト実務が変化する可能性が生じている。

4. 改正会社法制定による今後のキャッシュ・アウト実務の潮流と取締役会の役割

4. 1 今後のキャッシュ・アウト実務の潮流

上述のように、改正会社法の制定により、株式等売渡請求制度、株式の併合を用いたキャッシュ・アウト手法が整備され、従来の組織再編による方法、全部取得条項付種類株式を用いる方法に加え、キャッシュ・アウトの選択肢が大きく4つとなることとなる。今後、どの方法によるキャッシュ・アウトが主流となるであろうか。
今回の改正会社で注目されるのは、新設される株式等売渡請求である。通常、上場会社では株主総会を開催して承認決議を得るためには、相当な費用と時間を要する。これらの削減は、大きなメリットとなるが、株式等売渡請求制度を用いるためには、キャッシュ・アウトの前段階となるTOBの段階で、総株主の議決権の90%以上を獲得することが条件となる。TOBによる議決権の獲得が90%未満の場合は、売渡請求をすることができないため、株式の併合による方法若しくは、全部取得条項付種類株式による方法によるべきこととなる。
もっとも、従前通り全部取得条項付種類株式を用いる場合に、問題がないわけではない。改正会社法により変更された、取得価格決定申立て株主への全部取得条項付種類株式の取得対価の不交付により、従前、多勢を占めていた全部取得条項付種類株式を用いたキャッシュ・アウト方法に変化が生じる可能性がある。すなわち、全部取得条項付種類株式を用いてキャッシュ・アウトを実施する場合、①TOBに応じなかった株主に交付される全部取得条項付種類株式が1株未満であること、②公開買付者を含めた全ての株主に交付される全部取得条項付種類株式の端数の合計が1株以上になること(会社法234条1項かっこ書)、③公開買付者が保有する全部取得条項付種類株式に対価として割り当てられる株式が整数であることを充たす必要がある。そのため、この比率を適切に算定するには、各株主の所有株式数、自己株式数、発行済株式総数が確定している必要がある。従前は、この比率に影響を与える不確定な要素は、反対株主による買取請求を行った各株主の保有する株式数のみであったが、改正会社法によって取得価格決定申立て株主への全部取得条項付種類株式の取得対価を交付しないこととなったことから、取得価格決定申立てを行った各株主の保有株式数もこの比率を算出する上での不確定な要素となった。このように、取得価格決定申立て株主の取扱いが変更され、比率の決定に対する不確定な要素が増加したことから、全部取得条項付種類株式を用いたキャッシュ・アウト手法を採用することが難しくなる可能性が生じてしまった。
こう考えると、株式の併合によることが考えられるが、従前から株式の併合の利用方法如何によっては、株主総会決議取消請求も可能とされていることから、株式の併合によるキャッシュ・アウトは実務上、行われていなかった。改正会社法により株式の併合にも不服申し立ての制度が新設されたことから、上記につき、一定程度手当てされているが、この方法によるキャッシュ・アウト実務が確立するかは今後の実務の動向を見守る必要がある。

4. 2 株式等売渡請求に求められる取締役会の役割

今回新設された株式等売渡請求制度の最大の特色は、特別支配株主と少数株主の間の対象会社株式や新株予約権の売買が、対象会社の取締役会の承認のみによって実現することである。対象会社の取締役会は、特別支配株主から株式等売渡請求の承認を求められた場合、取締役会として、株式等売渡請求を承認するか否かを決定しなければならないが、ここで、対象会社の取締役会として、どのような点についての検討・注意義務を尽くした上で、承認するか否かを決定しなければならないかが問題となる。
この点に関し、改正会社法の成立に先立ち公表された「会社法制の見直しに関する中間試案」の補足説明によると、「売渡株主の利益に配慮し、キャッシュ・アウトの条件が適正なものといえるかどうかを検討」するべき職責を負うと説明される。6)従来取締役の「株式会社」に対する一般的な善管注意義務の内容は、会社の構成員である「総株主」の利益の最大化を図る義務と解されており、この両者が矛盾するのではないかという点で議論が存在する。(西村高等法務研究所「会社法改正要綱の論点と実務対応」86頁)
もっとも、いずれにしても、対象会社の取締役会として必要なのは、売渡しの対象となる株式や新株予約権について、なぜ提示された価格が妥当なのか、その算定根拠等の専門的なロジックに基づいた、独立した第三者算定機関による算定又はオピニオンを取得する等、当該売渡請求の承認にあたって専門的な見地からの意見を取得することが望ましく、これらの対応は、基本的に対象会社取締役会として株主や第三者に合理的に説明するために必要なものと考えられる。

以上

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References   [ + ]

1. キャッシュ・アウトとは、現金を対価とする少数株主の締め出しのことをいう。
2. 水野・西本「ゴーイング・プライベート(非公開化)のすべて」194頁
3. 江頭憲治郎「株式会社法(第4版)」270頁、伊藤・大杉他「会社法」122頁
4. 西村高等法務研究所「会社法改正要綱の論点と実務対応」81頁
5. 会社法制部会第12回会議(2011年8月31日開催)議事録40頁等
6. 従来取締役の「株式会社」に対する一般的な善管注意義務の内容は、会社の構成員である「総株主」の利益の最大化を図る義務と解されており、この両者が矛盾するのではないかという点で議論が存在する。(西村高等法務研究所「会社法改正要綱の論点と実務対応」86頁)

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