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エクイティファイナンス

No.
23

デット・エクイティ・スワップを取り巻く諸制度の再整理

1. はじめに

転換社債型新株予約権付社債は、有利子負債と株式の中間的性格を有するハイブリッド証券の一つであり、それぞれのメリットを併せ持った資金調達手法として知られている。すなわち、当初は有利子負債として資金調達することにより、既存株主の持分の希薄化を抑制できるとともに、転換権との見合いで利払の負担も普通社債に比べて軽減することができる。また、その後企業の業績が回復・向上した場合には、株式への転換が促進されることにより、元本及び利息の支払負担返済を免れることができ、投資家にも一定の利益を還元できるという特徴を有する。
しかしながら、近年の株式市場の低迷により、当初意図していた株式への転換が進まず、利払や元本返済の資金に窮する企業も見受けられる。そのため、転換権の行使によらず、デット・エクイティ・スワップにより債務を株式に変換し、財務体質の改善を図る企業が現れており、同様の課題を抱える企業にとって新たな解決策を示すものとして注目されている。
本レポートでは、株式会社丸栄により行われた転換社債型新株予約権付社債のデット・エクイティ・スワップの概要を紹介するとともに、デット・エクイティ・スワップにおいて増加する株主資本の金額に関連して、券面額説と評価額説という二つの異なる考え方について概説する。その上で、それぞれの考え方が会社法、会計基準及び税法上の取扱いに及ぼしている影響を検討することにより、デット・エクイティ・スワップに関する論点と留意点について明らかにしたい。

<要 旨>

  • デット・エクイティ・スワップによる株主資本の増加額については評価額説と券面額説とが存在しており、実務上は券面額説が主流である。
  • デット・エクイティ・スワップは現物出資の一形態であり、現物出資財産の価額等について、原則として検査役の調査を要する。
  • 現物出資財産の価額の相当性について弁護士・公認会計士等の証明を受けた場合には、検査役の調査を省略できる。
  • 弁済期の到来している債権を対象としたデット・エクイティ・スワップについては、検査役による調査を要しない。
  • 弁済期が到来していない債権を対象としたデット・エクイティ・スワップについても、債権者が期限の利益を放棄することにより、弁済期が到来した債権に準じて検査役による調査を省略する事例が一般的である。
  • 券面額説と評価額説は株主資本の増加額に関する問題であり、債務者側の処理にかかわらず、債権者側では債権の額面と時価との差額が損益として認識される。
  • 税務上の取扱いは評価額説に立っており、券面額説に基づき株主資本を増加させた場合には、債務消滅差益の認定による課税リスクが存在する。

2. 株式会社丸栄によるデット・エクイティ・スワップの事例

(1)概要

本第三者割当増資は平成23年10月25日に公表されたもので、親会社である興和株式会社に対して平成21年3月16日に発行した35億円の株式会社丸栄第3回無担保転換社債型新株予約権付社債を現物出資財産とし、第三者割当の方法により新株式が割り当てられた。新株式の発行価額は1株80円(資本金組入額は40円)であり、発行済株式総数86,618,887株に対して43,750,000株が新規に発行されることとなるため、親会社の保有割合(間接保有分を含む)は発行前の約53%から約69%に増加する。

(2)背景

平成23年10月25日付プレスリリース「第三者割当による新株式発行(現物出資(デット・エクイティ・スワップ))に関するお知らせ」によれば、百貨店事業の収益の黒字化及び安定化、2期連続の連結当期純損失からの脱却、並びにグループ企業の事業拡大を進めるため、第三者割当増資による自己資本の充実、有利子負債額の圧縮、支払利息の軽減などが必要と判断し、本第三者割当増資を実施するに至ったとされている。
ここで、デット・エクイティ・スワップの対象となるのは転換社債型新株予約権付社債であることから、普通株式への転換権が行使されれば上記の目的は達成されるようにも思われる。しかし、当該新株予約権付社債の転換価額は280円であり、本第三者割当増資の検討がなされた時点の市場株価である80円前後を大きく上回っていた。かかる状況で転換権を行使することは、債権者にとっては満期償還を受けるよりも不利となることから、債権者の取締役の善管注意義務(会社法330条、民法644条)や忠実義務(会社法355条)の関係上、採ることのできない選択であった。そこで、債権者から転換社債型新株予約権付社債の現物出資を受けて新株式を時価発行するというデット・エクイティ・スワップの手法が選択されるに至ったものと推測される。

(3)本第三者割当増資の特徴

① 券面額説の採用

下記3.のとおり、デット・エクイティ・スワップにおいては、増加する株主資本の金額に関連して券面額説と評価額説という二つの考え方が存在する。本第三者割当増資においては券面額説が採用され、現物出資財産となった転換社債型新株予約権付社債の額面がそのまま新株式の発行価額とされた。

② 公認会計士による証明書の取得

下記4.のとおり、現物出資を行う場合、現物出資財産の価額について、原則として検査役の調査を受ける必要がある(会社法207条第1項)。ただし、本第三者割当増資においては、公認会計士による証明書の取得により、検査役の調査が省略されている(会社法207条9項4号)。

3. デット・エクイティ・スワップにより増加する株主資本の金額:券面額説と評価額説

債権の現物出資により増加する株主資本の金額については、デット・エクイティ・スワップの性格に関連して、従来から券面額説と評価額説という2つの学説が存在しており、会社法及び会計・税務上の取扱いもこれらの影響を受けている。以下では、それぞれの考え方の概要及び異同点について概説する。

(1)評価額説

債権の時価を株主資本に振り替え、債権金額との差額を債務免除益とする考え方である。
評価額説による場合、債権の時価が株主資本の原資となることから、時価が適正に算定される限り、実態実体のない資産が払い込まれるということはない。したがって、評価額説は資本充実の原則に則した考え方といえる。
ただし、債権を現物出資するときには検査役の調査または弁護士等の証明が必要であるところ、評価額説によれば債権を時価で評価しなければならないため、調査または証明に時間と費用を要する。
また、債権の時価が額面金額を下回る場合には債務消滅差益が発生することとなるが、これによって法人税の支払負担が生じれば、財務状態の改善を図るというデット・エクイティ・スワップの目的に逆行する結果にもなりかねない1)ただし、繰越欠損金を多額に有している企業の場合には、結果として課税を受けないことも考えられるため、このような場合には債務消滅益の発生は特段問題とならない。

(2)券面額説

現物出資される債権の額面額を株主資本とする考え方である。
券面額説は、デット・エクイティ・スワップの対象となった債務の消滅により、当該負債の額面と同額だけ純資産が増加するという考え方を前提としている。
デット・エクイティ・スワップが活用され始めた当初は、券面額説は資本充実原則の観点から問題があるとの意見があり、実務上は採用し難い状況にあった2)「「純資産の部」完全解説―法律・会計・税務のすべて―」 太田達也 著 税務研究会出版局 2008年。しかしながら、平成12年に東京地裁民事8部より、デット・エクイティ・スワップの対象となる債権は混同により消滅するので、現物出資の結果として会社財産に含み損があるという事態が発生することはなく、券面額説を採用したとしても資本充実の原則の観点から問題ないという見解が示された3)「東京地裁商事部における現物出資等 検査役選任事件の現状」 針塚遵 著 旬刊商事法務No.1590 2001年 。加えて、下記(2)4.(3)に記載の通りとおり、弁済期が到来した債権を券面額以下の価額で出資する場合には検査役の調査を要しないとの規定が会社法に設けられたことにより、手続の簡素化が図れるという券面額説のメリットがより明確となり、実務上は券面額説に従った処理が主流となっている。

4. 会社法におけるの取扱い

デット・エクイティ・スワップは、債権の現物出資という形式をとることから、現物出資に関する会社法の一連の規制を受ける。具体的には、現物出資財産の価額につき原則として検査役の調査を受けなければならないが、一定の条件の下で手続の簡素化が図られている。

(1)検査役の調査

現物出資を行う場合、現物出資財産の価額について、原則として検査役の調査を受ける必要がある(会社法207条第1項)。

(2)弁護士等の証明を受けた場合の特例

検査役の調査には時間と費用を要することから、現物出資財産の価額の相当性について弁護士、弁護士法人、公認会計士、監査法人、税理士又は税理士法人の証明を受けた場合には、検査役の調査を要しないものとされている(会社法207条第9項第4号)。

(3)弁済期が到来した債権の特例

会社法では、弁済期の到来した金銭債権を帳簿価額以下の価額で出資する場合については、検査役の調査を不要とした(会社法207条9項5号)。この取扱いは、既に弁済期が到来している債権を現物出資財産とすることは当該債権の弁済額が即座に払い込まれるのと同様の結果をもたらすことから、検査役の調査を不要としても既存株主に損害は生じないという考え方を背景としている4)「逐条解説会社法 第3巻 株式・新株予約権」酒巻俊雄 龍田節 ほか 中央経済社 2009年
当該規定に関連して、実務においては、検査役の調査等を省略するために、デット・エクイティ・スワップの対象債権の債権者が期限の利益を放棄するという手法が採用されることが多い。期限の利益を放棄することによって、弁済期が到来した債権と同様、検査役の調査等を省略できると一般的に解されているためである。

5. 会計上の取扱い

(1)債務者の会計処理

上記3.のとおり、債務者側における株主資本の計上額については、券面額説と評価額説が存在することから、いずれの考え方をとるかにより会計処理が異なる。

① 券面額説

債権の額面金額を株主資本に振り替え、債務消滅差益(債務免除益)は認識しない。ただし、下記6.に記載の通りとおり、税務上の取扱いは評価額説に立っているため、債権の時価が券面額を下回るケースにおいて、券面額説による会計処理を行っている場合には、申告調整が必要となる。

② 評価額説

債権の時価を株主資本に振り替え、額面額との差額を債務消滅差益とする。

(2)債権者の会計処理

債権者は現物出資財産となった債権の消滅を認識するとともに、当該債権の帳簿価額とその対価としての受取額との差額を当期の損益として認識する。すなわち、券面額説または評価額説は、株主資本の計上額に関する問題であり、債権者の会計処理は債務者の会計処理にかかわらず適用されることに留意する必要がある(デット・エクイティ・スワップの実行時における債権者側の会計処理に関する実務上の取扱い2.(1))。

6. デット・エクイティ・スワップの税務

(1)デット・エクイティ・スワップにより増加する資本金等の額

上記3.のとおり、デット・エクイティ・スワップにより増加する株主資本の金額について、債務者側においては、券面額説が一般に採用されてきた。これに対し、法人税法ではデット・エクイティ・スワップに関する特別の規定は存在しなかったが、デット・エクイティ・スワップは資本等取引(法人税法22条5項)に該当し、課税関係は発生しないと解されていた。
しかし、会社法の施行に伴う法人税法の改正により、資本金等の額は「株主等から出資を受けた金額」(法人税法2条16号)と規定されたため、新株発行において増加する資本金等の額は、払い込まれた金銭の額及び給付を受けた金銭以外の資産の価額(時価)とされた(法人税法施行令8条1項1号)。これにより、債権の現物出資であるデット・エクイティ・スワップにより増加する資本金等の額は、消滅する債権の時価とされることが明確化された。したがって、現行の法人税法は評価額説を前提に整備されているものと考えられる5)「「純資産の部」完全解説―法律・会計・税務のすべて―」 太田達也著 税務研究会出版局 2008年

(2)税務処理

① 債務者側

債権の時価相当額につき資本金等の額を増加させ、債権の時価相当額が額面金額を下回るときは、債権の時価相当額と額面金額との差額を債務消滅差益として認識する。したがって、券面額説による会計処理を行っている場合には申告調整が必要となる。
ここで、デット・エクイティ・スワップに伴う債務消滅差益が益金算入されることにより法人税の負担が増加する場合には、これがデット・エクイティ・スワップ活用の足枷になることも考えられ問題視されていた。ただし、デット・エクイティ・スワップは、業績の悪化した債務超過会社が、会社再建の手段として利用するケースが多く、繰越欠損金を多額に有している場合、結果として課税を受けないことも考えられる。また、会社更生法、民事再生法その他それに準ずる一定の場合において、期限切れの欠損金を債務消滅差益に充当することもできる(法人税法59条1項1号、2項1号)。そのため、債務消滅益が生じることによる弊害は問題とならない場合も多いと思われる。

② 債権者側

債権者側においては、デット・エクイティ・スワップが適格現物出資に該当する場合を除き、法人税法施行令119条1項2号が適用され、債権者が取得する株式の取得価額は、その取得時の債権の時価になる。この点に関連して、法人税基本通達2-3-14においては、債権を現物出資した際に取得した株式の価額について、その取得の時における給付をした当該債権の金額となることが明示されている。したがって、合理的な再建計画等の定めるところにより行なわれたデット・エクイティ・スワップにおいては、取得時の債権の時価と消滅した債権の帳簿価額との差額を損益の額に算入する。法的整理手続の場合など債権者の合理的再建計画等に基づき、やむを得ずデット・エクイティ・スワップを行なう場合等、寄付行為とは認められない場合については、全額の損金算入が認められるものと考えられる。

(3)債務消滅益に対する課税リスク

以上でみたとおり、デット・エクイティ・スワップにより増加する株主資本に関しては一般に券面額説がとられる一方、税務上の取扱いは評価額説を前提としていることから、債権の時価が帳簿価額を下回る状況で債務者が券面額説に基づき株主資本を増加させた場合において、税務上債務消滅益が認定されるリスクが生じる。
一般的には、債権の時価を算定することは困難であり、デット・エクイティ・スワップを実施した債務者に対して債務消滅益の認定がなされるケースは少数であると考えられる。ただし、デット・エクイティ・スワップによる債務消滅益の認定がなされ、税務訴訟に発展したケースが存在する。以下では当該訴訟の概要と背景について検討することにより、デット・エクイティ・スワップに内在する課税リスクについて明らかにする。

① 本件訴訟の概要

本件訴訟は、原告(債務者企業)が平成15年5月期に関連会社との間で実施したデット・エクイティ・スワップについて、債権と債務の混同による債務消滅益の計上漏れがあるなどとして行われた更正処分等に対し、原告がその取り消しを求めて提起したものである。
平成21年4月28日、東京地裁民事第2部(平成19年(行ウ)第758号)は、課税処分を容認する旨の判決を言い渡しており、東京高裁平成21年(行コ)第206号)も同旨の判決を下している。

② 裁判所の判断

東京地裁は、デット・エクイティ・スワップを①現物出資による貸付債権の移転、②貸付債権とこれに対応する債務の混同による消滅、③新株発行という複数の各段階によって構成される複合的な行為であると捉え、これらを1つ一つの取引行為と見ることができないと判断した。上記①及び③の過程においては、資本金等の金額が増減するので税務上も資本金等取引に該当するが、②の債権債務の混同の過程においては、資本金等の増減は発生せず、資本金等取引に該当しないというのがその根拠である。
以上の理由から、デット・エクイティ・スワップを①現物出資、②混同による消滅及び③新株発行という各段階の過程で構成される複合的な行為と捉えることが、当事者の合理的な意思に反するものではないとして、原告である会社側の請求を棄却した6)判例では、「本件債務免除益の認定は、平成18年改正後の法人税法の遡及適用によるものではない。平成18年改正前に課税当局によって一般的な税務上の取扱いが示されたことを認めるに足りる証拠はない。」とされており、会社法の施行以前から課税当局における税務上の取扱いが変更されていないことが示されている。

③ 本件訴訟における特別の事情

当該訴訟では、デット・エクイティ・スワップの実施以前に対象債権が複数回にわたって時価譲渡されていたという経緯があり、判決において認定された当該債権の時価は、過去の譲渡時における取引価額を基に算定されたものであった。また、対象債権が原債権者から転々譲渡された結果、デット・エクイティ・スワップの実行時には対象債権を債務者の関係会社が取得していた。
その結果、デット・エクイティ・スワップが適格現物出資(法人税法2条12号の14)に該当するものとされ、債権の価額は、債権者の現物出資の直前の帳簿価額と判断されたことにより、券面額との差額が債務消滅益として認定されることとなった。

7. おわりに

株式会社丸栄の事例は、一般の借入債務のみならず、転換社債型新株予約権付社債が財務上の負担となっている企業においても、デット・エクイティ・スワップが有用であることを示した事例といえる。しかし、デット・エクイティ・スワップに関しては、株主資本の計上額に関して券面額説と評価額説の二つが対立しており、現行制度上もそれぞれの考え方が混在していることから、実務上、法律・会計・税務の諸制度における判断や取扱いに迷う場合も多い。本稿を通じて、券面額説と評価額説の異同、債務者側と債権者側の取扱いの異同などについて理解しを中心に、デット・エクイティ・スワップに関する理解を深めていただければ幸いである。

以上

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References   [ + ]

1. ただし、繰越欠損金を多額に有している企業の場合には、結果として課税を受けないことも考えられるため、このような場合には債務消滅益の発生は特段問題とならない。
2. 「「純資産の部」完全解説―法律・会計・税務のすべて―」 太田達也 著 税務研究会出版局 2008年
3. 「東京地裁商事部における現物出資等 検査役選任事件の現状」 針塚遵 著 旬刊商事法務No.1590 2001年
4. 「逐条解説会社法 第3巻 株式・新株予約権」酒巻俊雄 龍田節 ほか 中央経済社 2009年
5. 「「純資産の部」完全解説―法律・会計・税務のすべて―」 太田達也著 税務研究会出版局 2008年
6. 判例では、「本件債務免除益の認定は、平成18年改正後の法人税法の遡及適用によるものではない。平成18年改正前に課税当局によって一般的な税務上の取扱いが示されたことを認めるに足りる証拠はない。」とされており、会社法の施行以前から課税当局における税務上の取扱いが変更されていないことが示されている。

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