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No.
67
データで見るフェアネス・オピニオンの取得事例―買手・売手別の取得状況を中心として-
1 はじめに
前回のレポート「フェアネス・オピニオンが適合する状況とは」(以下、「No.56」といいます。)では、平成24年7月に発表した「我が国におけるフェアネス・オピニオンの取得の背景:事例分析を中心として」(以下、「No.31」といいます。)で取り上げたフェアネス・オピニオンの取得事例を拡張する形で、平成23年1月から直近までの取得事例を対象に、その取得の背景を分析しました。
本稿では、同様の事例を対象として、取得日及び売手・買手別の取得状況を明らかにします。これらについては平成24年8月に発表した「フェアネス・オピニオンに関する素朴な疑問」(以下、「No.30」といいます。)でも取り扱っており、今回もこれとおおむね整合的な結果が得られました。ただし、分析対象を拡大したことにより、新たな傾向も判明しています。
2 分析の対象
分析対象とした取引を表1に示しました。公表日に関する考え方、買手と売手の分類基準については、No.56と同様です。No.30及びNo.31の分析対象は、下記のうち8から20までの13件を対象としたものです。
<表1 フェアネス・オピニオンの取得事例>
3. フェアネス・オピニオンの取得日
公表日の前々日が1件1)三井住友銀行株式会社によるプロミス株式会社の普通株式等に対する公開買付け(表1のNo.9)において、プロミス株式会社に提出されたフェアネス・オピニオンが該当します。 、前月末日が1件2)ソフトバンク株式会社からヤフー株式会社への株式譲渡(表1のNo.25)において、ヤフー株式会社に提出されたフェアネス・オピニオンが該当します。 、あったのを除き、39件中37件が公表前日または当日の取得でした。
No.30で解説した通り、フェアネス・オピニオンは、取締役会決議に先立ち、予定されている決議事項が変更されないことを停止条件として、取引価格の公正性に関する意見を述べるものです。このような性格上、フェアネス・オピニオンが取締役会の当日またはそれに近接する直前の時点の取得となるのは当然の結果といえます。
4. 買手・売手別の取得状況
No.30では、平成24年7月以前の一年間に公表された事例を対象として、買手及び売手のそれぞれにおけるフェアネス・オピニオンの取得状況を検証することにより、フェアネス・オピニオンの要否に関する判断基準について、一定の仮説を示しました。今回は、対象を拡大して分析した結果を踏まえ、その結論に修正を加えます。
以下では、No.30で示したフェアネス・オピニオンの要否に関する判断基準を再度提示するとともに、今回の分析結果を踏まえた新たな判断基準について検討します。
4. 1 従来の分析結果
No.30の分析対象となった13件中、買手のみがフェアネス・オピニオンを取得した事例は1件のみだったのに対し、売手がフェアネス・オピニオンを取得した事例は12件あり、そのうち6件では双方がフェアネス・オピニオンを取得していました。
そして、売手のみがフェアネス・オピニオンを取得した事例の多くは、制度上「支配株主との取引等」またはこれに類する取引に該当し、少数株主保護が重要な目的として存在していました。これに対し、双方がフェアネス・オピニオンを取得した事例では、当事者間に必ずしも利益相反関係が存在せず、むしろ大規模な経営統合などに際し、取引価格の公正性を担保する必要性が存在していました。
以上のような事実から、まず「少数株主保護」、次いで「その他手続の公正性担保」という観点で検討を行い、前者の事由が存在する場合には売手側において、後者の事由が存在する場合には双方において、フェアネス・オピニオンの取得を検討するというのが、No.30で示した判断基準でした。ただし、重要性の程度に応じ、売手側での入手を省略したり、買手側での入手を追加することは考えられます。これをまとめたものが表2です。
<表2 取得の目的別に分類したフェアネス・オピニオンの要否>
※1 重要性が高い場合は取得する場合もある。
※2 重要性が乏しい場合には取得しない場合もある。
4. 2 最新の情報に基づく買手・売手別の取得状況
表3は、表1の事例につき、フェアネス・オピニオンの買手・売手別の取得状況と、フェアネス・オピニオンの作成者を示したものです。
<表3 フェアネス・オピニオンの取得状況及び作成者>
※1 「デロイトトーマツフィナンシャルアドバイザリー」の略です。
※2 複数の買手のうち、KDDI株式会社のみがフェアネス・オピニオンを取得しました。
※3 買手の親会社である丸紅株式会社がフェアネス・オピニオンを取得しました。
さらに、表1の事例を取得事由別に分類した上で、買手・売手別の取得状況を示したのが表4です。
<表4 取得事由別に見たフェアネス・オピニオン取得件数と売手・買手別の取得状況>
4. 3 従来の分析結果と最新の集計結果の整合性
表4においても、39件中31件で売手がフェアネス・オピニオンを取得しており、No.30で示した「フェアネス・オピニオンは主として売手によって取得される」という一般論はおおむね妥当しています。
また、売手のみがフェアネス・オピニオンを取得した18件のうち、15件は形式上「支配株主との取引等」に該当します。その他の取引に含まれる3件のうち、2件については非公開化目的の公開買付けであり、支配株主との取引等を含む一連の取引を構成するものでした。よって、売手のみがフェアネス・オピニオンを取得する場合には、主として少数株主保護が目的であるという仮説についても、これをおおむね裏付ける結果となっています。
さらに、双方がフェアネス・オピニオンを取得している13件のうち、「支配株主との取引等」に該当するのは4件にとどまり、むしろ共同株式移転による持株会社の設立など、大規模な経営統合を事由とした取得事例が多くなっています。このことからも、最新の情報に基づく集計結果は、表2に示した判断基準と一定程度整合的です。
4. 4 最新の分析結果に基づく結論の修正
しかしながら、今回分析対象を拡大したことにより、その仮説には一定の修正が必要になると思われます。なぜなら、No.30で分析対象とした取引中、唯一買手のみがフェアネス・オピニオンを取得した、アルフレッサホールディングス株式会社による常盤薬品株式会社の株式交換による完全子会社化事例以降、買手のみがフェアネス・オピニオンを取得している事例が散見されるようになったからです。
表5は、該当する8件を表1から抜粋したものです。
<表5 買手のみがフェアネス・オピニオンを取得した事例>
これらの事例を、大きく二つに分類することができます。一つは、「支配株主との取引等」に該当せず、かつ買手の規模が売手を相当程度上回るか、売手が非上場の場合で、アルフレッサホールディングス株式会社、ソニー株式会社、三菱重工業株式会社、日鉄住金テックスエンジ株式会社、株式会社ソフィアホールディングスの事例がこれに該当します。
もう一つは、「支配株主との取引等」に該当するものの、支配株主側が買手、そうでない側が売手という一般的な関係が成り立たない場合です。具体的には、兄弟会社であるモーションビート株式会社と株式会社スパイアの合併、支配株主であるソフトバンク株式会社から株式を譲り受けたヤフー株式会社の事例がこれに該当します。
このような関係を考慮すると、「支配株主との取引等」に該当する場合に、少数株主が存在する当事者による取得を要し、その他の場合には、公正性の担保という観点から、各当事者の企業規模、取引全体の規模などに応じて適宜取得を検討すべきという形で、フェアネス・オピニオンの要否を一般化することができます。
以上の関係から表2を修正したものが表6です。表中の「○」は、制度上フェアネス・オピニオンを含む第三者意見の取得が求められることを示し、△は当事者の企業規模等に応じて適宜取得を検討すべきことを示しています。
<表6 取得の目的別に分類したフェアネス・オピニオンの要否:改訂版>
※1 MBO目的の公開買付けなど、支配株主との取引等の一環として実施される取引を含みます。
※2 「支配株主との取引等」において、「支配株主等」に該当する側(たとえば親会社)をいいます。
※3 上記「支配株主側」の相手方をいいます。
5. おわりに
No.56では、一昨年以降蓄積された事例に基づき、当時の事例からは必ずしも読み取れなかった「フェアネス・オピニオンが適合する状況」を明らかにしましたが、本稿の分析結果は、当時の結論と大筋において整合的でした。とはいえ、その結論に一定の修正が加わり、継続的な調査の必要性を再認識したのも事実です。
フェアネス・オピニオンの作成者の属性、近年の注目すべき事例といった、今回取り扱えなかった論点はいくつか残っています。それらについては、機会を改めて取り上げる予定です。
以上
References
1. | ↑ | 三井住友銀行株式会社によるプロミス株式会社の普通株式等に対する公開買付け(表1のNo.9)において、プロミス株式会社に提出されたフェアネス・オピニオンが該当します。 |
2. | ↑ | ソフトバンク株式会社からヤフー株式会社への株式譲渡(表1のNo.25)において、ヤフー株式会社に提出されたフェアネス・オピニオンが該当します。 |
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