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1
株価ジャンプを反映したオプションの評価について
はじめに
ストックオプション及びその他のエクイティー関連商品(新株予約権、転換社債型新株予約権付社債等)の評価では、株価が連続的に変動することを前提とした評価方法(連続時間型モデル:株価の動きは切れ目のない連続的な動きであるという
仮定)が採用されていることが多い。しかしながら、現実の株式市場では、株価の急上昇・急降下の動き(ジャンプ)が観測できる。そのため、本レポートでは、非連続的な動き(離散時間型)である「ジャンプ」現象を分析し、これを反映したストックオプション評価の可能性を検討する。
ジャンプとは
本レポートで言う「ジャンプ」とは、株価が急に上昇もしくは下落する現象と定義する。代表的な例は、1987年の米国の株価大暴落が挙げられ、ダウジョーンズ指数が1日に前日比22%と急落した。最近の例としてはリーマンショックに起因する
株価の大幅下落も、下方に「ジャンプ」したものと考えられる。また、株価の「ジャンプ」は、公開企業が発表している業績予想が、当初発表時と異なる業績となった場合にも、よく生じる現象である。そのため、現実の株価は時々「ジャンプ」する現象が観測される。連続時間型モデルの代表例であるブラック・ショールズモデルでは、これら「ジャンプ」現象を算定数値に反映できないのが現状である。
ジャンプの発生について
次に、実際の株式市場において、「ジャンプ」はどの程度発生しているのかを分析してみる。分析対象としてTOPIX、トヨタ自動車(TOPIX構成銘柄中最も構成割合が大きい銘柄)及びMonotaRO(TOPIX構成銘柄中最も構成割合が小さい銘柄)を採用した。以下のグラフで、株価推移の特徴(いわゆるジャンプ)は銘柄により異なる事を示す。各々の株価のジャンプ期間を赤円で印を付けた。
グラフ1を見ると、TOPIXに大きな変動は頻繁に見られなかった。これはTOPIXが1,600以上の銘柄の株価を集約した指標であり、個別銘柄固有の動きは相殺される。時価総額の大きいトヨタ自動車と小さいMonotaROの株価グラフを比較すると、株価ジャンプはトヨタ自動車よりMonotaROでより多く発生していることは明らかである。この3つの指標(TOPIX、トヨタ自動車、MonotaRO)の株価変動を週次で観察し、その分布を以下にグラフで示す:
このグラフをみると、株価のジャンプ現象の頻度と幅は銘柄に依存する事が分かる。インデックスや大企業と言える会社の株価変動は株価ジャンプが起こりづらく、株価は連続的な動きに近似できる。一方、小規模会社や流動性が低い銘柄で
は、株価ジャンプは頻繁に発生していることがわかる。従って、小規模の会社が発行するオプションの評価において、株価ジャンプの発生を反映できる手法を採用するべきと考えられる。
ブラック・ショールズモデルの拡張
会計基準対応目的のストックオプションの評価において、ブラック・ショールズモデルは実務上最も採用されているモデルである。ブラック・ショールズモデルは、株価は連続的に変動し、その株価変動の影響を完全にヘッジできる(リスクニュートラル)という前提に基づき評価を行うものである。しかし、株価がジャンプする場合には、株価の影響を完全にヘッジできなくなり、リスクニュートラルの前提は破綻してしまう。ただし、株価のジャンプをヘッジできないことが、オプションを評価できないという意味ではない。Merton (1976)は、新たな基礎数値としてジャンプの確率分布の仮定を
置き、ブラック・ショールズモデルにおける株価変動の前提を修正し、株価ジャンプを反映した評価モデルを公表している。
モンテカルロシミュレーションの拡張
最近は複雑な発行条件のストックオプション及び転換社債も散見されており、その評価にはモンテカルロシミュレーションという手法が採用されている。モンテカルロシミュレーションとは、コンピュータを用いて将来株価の動きをシミュレーションし、株価のシミュレーション結果に基づいてストックオプションを評価する方法である。一般的に採用されている株価のシミュレーション方法はブラック・ショールズモデルと同様の仮定を置き、株価の動きは連続的であるとしている。一方、株価ジャンプの特徴をシミュレーションに反映させるには、株価ジャンプの分布や頻度の仮定を置き、シミュレーションに用いる一般的な株価変動式を拡張すれば、ジャンプの効果が組み込まれた株価の動きを作り出せる。株価ジャンプにおけるパラメーターはヒストリカルデータから見積もることが可能である。拡張したされた株価シミュレーションに基づきストックオプションを評価する。以下の図はジャンプがない株価シミュレーションと弊社の手法によりジャンプを反映した株価シミュレーションの結果である。

まとめ
以上の様に、株価のジャンプが観測されやすい会社のストックオプション及びエクイティー関連商品を評価するには、株価の動きの前提もジャンプする確率を考慮して評価を行う方が、現実の市場をより正確に反映していると考えられる。ただし、どの程度からジャンプ現象が生じていると判断するかは、一律の方針等はないため、専門家と相談の上、発行会社毎に考慮する必要がある。
以上
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