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No.
35
裁判で株価算定書の開示を求められたら 拒否できる?
Ⅰ. 会社法下における株価を巡る裁判の増加
平成18年施行の会社法はスクイーズアウト(少数株主の締め出し)を想定した利用を前提に全部取得条項付種類株式の規定を設け、スクイーズアウトを活用できる制度に移行した。
これにより、スクイーズアウトを伴う完全子会社化、MBOなどの事例が増加したが、その反面、スクイーズアウトに反対する少数株主が、株式買取請求を求め裁判所に買取価格の決定を求める事案が急増した。本年も、株式会社カルチュア・コンビニエンス・クラブのMBOに係る株式取得価格申立事件など株価を巡る注目すべき裁判事案が出てきている。
会社法のもとで非公開化が行い易くなった一方、価格を巡る裁判リスクが高まり、株式価値算定プロセスの説明責任が求められ、裁判リスクにも耐え得る株式価値算定のニーズが高まっている。
Ⅱ. 現在の裁判における株価算定書の取扱い
株式買取請求等による価格決定申立事件などの非訟事件手続きでは、当事会社又は当事会社側の算定機関が拒否することにより、株価算定書が開示されないまま裁判をせざるを得ないケースが多く存在する。株価算定書は本来、このような株式買取請求が行われた場合やそのまま裁判に発展した場合に、会社側が取引価格の妥当性を説明するための一資料として取得される。しかしながら、株価算定書には、事業計画などの企業秘密や算定機関の評価ノウハウが記載される側面もあることから、実際に株式買取請求に係る裁判が行われると会社又は会社側の算定機関が株価算定書の開示を認めないということが多く行われている。
会社側は、取引の実行時においては、株価算定書を取得していることを根拠として取締役等の判断が適切に行われたと説明するにもかかわらず、価格の妥当性について裁判に発展した場合には株価算定書が開示されないのでは、価格を争う株主にとっては、会社側の主張の適否についての重要な判断要素を欠くことになる。
Ⅲ. 非訟事件手続法の改正による実務の変化
非訟事件手続法(新法)が平成23年に改正され、平成25年1月1日に施行される。株主は裁判所に対して文書提出命令の申立てを行うことができるようになり、会社は株価算定書の開示を拒否することが基本的にできなくなる。この法改正により、今後、株式の価格決定が裁判で争われる場合には、市場株価を中核とする論争から、株価算定書による算定過程を中核とする論争へ移行することが予想される。その結果、今後は株価算定書が開示される事例が増加することになり、より客観性・合理性を追求した算定が求められることとなる。スクイーズアウトや組織再編を実行する企業の取締役会は、取締役の善管注意義務の観点から、信頼のおける評価機関を慎重に選定することに、より一層留意する必要がある。
以上



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