レポート/メールマガジン
REPORTS
プロがまとめた調査・考察レポートを無料公開中
レポート/メールマガジン
No.
54
2013年上半期におけるTOBの動向
Ⅰ. 件数は前年同期比3割増
2013年上半期に実施された株式公開買付け(以下、「TOB」という。)の件数は40件と、前年同期の31件に比べ約3割増加した1)公開買付届出書の提出日を基準に集計しており、以下においても同様である。。内訳は1-3月期27件・4-6月期13件となっており、これに対し2012年1-3月期は22件、4-6月期は9件であった。4-6月期に比べ1-3月期の件数が多いという傾向には変化がない。
Ⅱ. 買付金額は増加もプレミアムは低廉に
2013年上半期のTOBのうち、買付金額100億円を超える大型案件は、2012年上半期に比べ4件多い11件となっている。これは昨年末以来の株高により1株当たりの買付価格が上昇し、全体として買付金額が増加したためと考えられる。ただし、TOBの際に支払うプレミアムは、昨今の株価上昇を受けて減少した。
表は、2012年及び2013年上半期に実施されたTOBについて、プレミアムの平均値を目的別に集計したものである。
全案件におけるプレミアムの平均値は17%で、2012年の37%から大幅に減少している。これは、MBO目的及び自己株式取得のためのTOBを除き、プレミアムの水準が大きく低下したためである。
Ⅲ. ディスカウントTOBの急増
上記の表で注目すべき点は、連結子会社化目的、資本提携目的のTOBのプレミアムの平均値が負となっていることである。特に後者については、ディスカウントTOBが多く行われたことを意味している。
すなわち、2013年上半期において、公表日前日の終値以下の買付価格をつけた事例は、2012年上半期の6件から13件に急増した。一般的にディスカウントTOBで行われる自己株式取得の際のTOBを除外すると、件数の増加は3件から9件とより顕著なものとなる。
特に、資本提携目的のTOBについては、光通信によるTOB2)株式会社光通信によるTOB(2013.2.13届出) を除き、いずれもディスカウントTOBとなっており、公表日前日の終値から約2%~約25%のディスカウントがなされている。当該事例の公開買付届出書によると、対象者事業の収益基盤強化と企業価値の向上を図ると同時に上場維持を企図し他の株主の応募を実質的に防ぐという理由 3)ソフトバンクモバイル株式会社によるTOB(2013.4.1届出)や、救済目的のTOBであるという理由 4)株式会社三栄建設設計によるTOB(2013.3.27届出)等が挙げられている。すなわち、完全子会社化事例などと異なり、一般株主の応募を想定しないTOBが多く行われたことが、ディスカウントTOBの件数増加の背景にあったと考えられる。
Ⅳ. 「その他」の目的によるTOBの急増
2013年上半期におけるTOBにおいてもう一つ特筆すべき点としては、「その他」に分類される事例が急増したことが挙げられる。
「その他」に分類されるTOBの目的をみると、対象会社の非公開化5) 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモによるTOB(2013.1.31届出)、KDDI株式会社によるTOB(2013.2.27届出)など。手続の一環として実施する事例や、持分法適用会社株式の買い増しを図る事例6) 伊藤忠商事株式会社によるTOB(2013.2.26届出)など。、対象者大株主所有持分の譲渡を図る事例 7)井康彦氏によるTOB(2013.5.20届出)など。など様々なものが挙げられる。もっとも、これらの目的を概観すると、ごく少数の株主に対象者株式を集めることで、株主構成を単純化し、対象者と買付者との関係を強化し収益力・競争力を高めるということを企図している企業も少なくないと思われる。
以上
References
1. | ↑ | 公開買付届出書の提出日を基準に集計しており、以下においても同様である。 |
2. | ↑ | 株式会社光通信によるTOB(2013.2.13届出 |
3. | ↑ | ソフトバンクモバイル株式会社によるTOB(2013.4.1届出 |
4. | ↑ | 株式会社三栄建設設計によるTOB(2013.3.27届出 |
5. | ↑ | 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモによるTOB(2013.1.31届出)、KDDI株式会社によるTOB(2013.2.27届出)など。 |
6. | ↑ | 伊藤忠商事株式会社によるTOB(2013.2.26届出)など。 |
7. | ↑ | 井康彦氏によるTOB(2013.5.20届出)など。 |
M&A・組織再編のレポートを見る
-
公正なM&A指針公表後5年間における特別委員会/フェアネス・オピニオン実務の変化(2024年07月31日号)
Topic. ► 公正なM&A指針公表後5年間における特別委員会/フェア...
-
「資本コスト経営」の視点で読み解く継続価値(2024年5月31日号)
Topic. ► 「資本コスト経営」の視点で読み解く継続価値 ...
-
株式交付制度公表事例による株価算定手法分析等の追跡調査(2023年08月31日号)
Topic. ► 株式交付制度公表事例による株価算定手法分析等の追跡調査 ...
-
公正なM&A指針公表後4年間における特別委員会/フェアネス・オピニオン実務の変化(2023年07月31日号)
Topic. ► 公正なM&A指針公表後4年間における特別委員会/フェアネス・オ...
-
公正なM&A指針公表後3年間における特別委員会/フェアネス・オピニオン実務の変化(2022年07月29日号)
Topic. ► 公正なM&A指針公表後3年間における特別委員会/フェアネス・オ...
-
『バリュエーションの理論と実務』刊行のお知らせ(2022年1月14日号)
Topic. ► 『バリュエーションの理論と実務』刊行のお知らせ ...
M&A・組織再編の事例を見る
-
科研製薬株式会社による海外子会社買収における株式価値の算定及び意見表明
科研製薬株式会社(東証プライム 4521)が、傘下の特別目的会社を通じて、Aadi Bioscience, Inc.(NASDAQ AADI)の事業の一部を子会社株式の買収により承継するにあたり、科研
続きを読む
-
LINEヤフー株式会社によるBEENOS株式会社の株式公開買付けにおける株式価値の算定及び意見表明
LINEヤフー株式会社(東証プライム 4689)によるBEENOS株式会社(東証プライム 3328)の完全子会社化を目的とした株式公開買付けに際し、BEENOS株式会社が設置した特別委員会の第三者算定
続きを読む
-
東邦亜鉛株式会社が発行するA種優先株式及びB種劣後株式の評価
東邦亜鉛株式会社(東証プライム 5707)が事業再生目的で株式会社アドバンテッジパートナーズ傘下のファンド及び株式会社辰巳商会による出資を受けるにあたり、第三者評価機関としてA種種類株式及びB種劣後株
続きを読む
M&A・組織再編のソリューションを見る
-
株価算定
株価算定 エクイティファイナンス、M&A、TOB、自社株買いなど、株式や事業の譲渡、移転を伴う取引価格の決定、裁判における価格の立証、会計処理を前提とした評価額の算定など様々な目的に応じ、第
-
合併・株式交換・株式移転
合併・株式交換・株式移転 合併・株式交換・株式移転に際して株式価値を算定する場合、それぞれの企業の価値を別個に算定するときよりも、考慮すべき要素は多岐にわたります。これは、複数の企業を整合的な手法に
-
TOB
公開買付け(TOB、take-over bid) 一定数以上の上場株券等を買付ける目的で公開買付けを実施する場合には、公開買付届出書により通常の取引よりも厳格な情報開示が求められ、その範囲は公開買付
-
MBO
非公開化・MBO(Management Buyout) 抜本的な経営改革の手段として、MBOを含む非公開化が選択される場合、買手と少数株主の間に構造的な利益相反が存在することから、公正性の担保が重要
-
スクイーズアウト
スクイーズアウト 少数株主からの強制取得、いわゆるスクイーズアウトがなされる局面としては、非公開化・MBOの一環として行われる場合の他、取引先の非上場会社を完全子会社化する場合、分散した株式を創業家
-
債権譲渡
債権譲渡 グループ会社間取引やM&A取引において、金融債権が独立して譲渡される場合があります。 プルータス・コンサルティングの強み プルータスは、これまで培った豊富な評価経験及び金融債権