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No.
3
過去2年間の事例にみる公開買付(TOB)と第三者評価
本稿では、過去2年間の公開買付(TOB)の傾向とTOB価格決定のための第三者評価の取得状況を分析し、今後の公開買付を実施するにあたっての留意点を検討しました。
➢過去2年間の公開買付(TOB)の実施件数は、平成19年の102件に比し、平成20年及び平成21年のTOBは減少しているものの平成20年の78件、平成21年の79件と同水準の件数で推移している。この2年間のMBOは横ばいであるが、完全子会社化(TOB実施後、株式交換又はスクイーズアウトを実施するもの)を目的としたTOBが28件から41件へと増加している。
➢TOB価格と市場株価との差額であるプレミアムは、MBOが最も高い水準を示し、完全子会社化についてはMBOに続く水準である。MBOは、スクイーズアウトを伴うTOBであることから、少数株主の利益を配慮しなければならないことによるものと考えられ、完全子会社化についても同様のケースが多い。
➢ 完全子会社化のケースでは、TOB後に株式交換を実施するものもあり、この条件がTOB価格よりも好条件のものもあり、株式交換後の完全親会社の株価上昇も期待できることから、完全子会社化のプレミアムは、MBOのそれよりも低めになっている。
➢MBO目的のTOBで買付者が第三者評価を取得していないのは、平成20年では2件、平成21年では5件であった。これらは、投資銀行業務を行なう買付者が、第三者評価を取得せずに自社でTOB価格を決定しているものである。他のMBO目的のTOBにおける買付者が同様の立場であっても第三者評価を取得しており、第三者評価に対するスタンスに違いが生じている。買付者側の意思決定の公正性を担保するには、投資銀行業務を行なう買付者であっても第三者評価を取得することが望ましい。
➢完全子会社化のTOBで買付者が第三者評価を取得しているものの、公開買付届出書に第三者評価を添付していないものが平成20年で15件、平成21年で12件ある。これらは、買付者の買付前の持株比率が低く買付対象者との支配関係が認められないものであった。
➢ 金融商品取引法の改正に伴い、一定のMBO及び子会社株式のTOBに関しては、第三者評価を取得した場合には、当該評価書を開示することが義務づけられているが、その開示内容の範囲が拡大する傾向にある。
【目的別TOB件数】
平成20年及び平成21年の目的別TOB件数は以下の通りで、平成21年は完全子会社化の件数が大幅に増えています。これは、世界的な金融危機の発生以降の厳しい経営環境に対応するため、組織再編が増えたものと考えられます。
※TOBの目的については、公開買付届出書及び意見表明報告書を参考として以下のように分類しています。
1. MBO:対象者の経営者が買付者側に立つTOBで、少数株主のスクイーズアウトを伴うもの
2. 完全子会社化:株式交換又は少数株主のスクイーズアウトを伴うTOBで1.以外のもの
3. 連結子会社化:目標シェアが50%超のTOBで1.及び2.以外のもの
4. 資本業務提携:目標シェアが50%未満または目標シェアを定めないTOB
5. その他:上記のいずれにも分類されないもの(大株主間の株式移動など)
【目的別プレミアム】
平成20年及び平成21年の公開買付価格の市場株価に対するプレミアム(市場株価と公開買付価格との差額)は、MBOが最も高い約70%~90%、続いて完全子会社化が約50%~70%となっています。以下の表のとおり、目標シェアが高くなるほどプレミアムが高くなる傾向にあります。
また、対象者の経営陣が買付者となり、その構造上、利益相反が生じる可能性のあるMBOにおいては、スクイーズアウトを伴うTOBであることから、少数株主の利益を配慮しなければならず、完全子会社化についても同様のケースが多いものと考えられます。
なお、完全子会社化のケースでは、TOB後に株式交換を実施することを前提とし、その条件がTOB価格よりも好条件であるものもあり、完全子会社化のプレミアムは、MBOのそれよりも低めになっています。
※ 基準日とは、公開買付届出書に記載のあるプレミアムの基準としている日を言い、一般的に取締役会等での「決定の日」や「公開買付の実施についての公表日」の前日となっている。
【目的別公開買付期間】
公開買付期間については、上記プレミアムと同様に目標シェアが高くなるほど公開買付期間が長く、また、利益相反が生じる可能性のあるMBOにおいては、最も長い期間が設定されています。
【第三者算定機関の動向】
平成18年12月に施行された金融商品取引法の改正に伴い、MBO及び子会社株式のTOBに関しては、買付者が対象者の意思決定に影響を与えることができる関係が存在しており、価格決定に際して利益相反の関係が生じる可能性が高いことに鑑み、第三者評価を取得した場合に当該算定書を公開買付届出書に添付することが義務づけられました。
金融商品取引法の改正に伴い、MBO及び子会社株式のTOBに関しては、投資銀行業務を行なう買付者が第三者評価を取得せずに、自社でTOB価格を決定している場合を除き、すべての事案において第三者評価が取得されています。しかしながら、投資銀行業務を行なう買付者であっても価格決定に際して利益相反の関係は生じ得ることから、このようなケースであっても第三者評価を取得することが望まれます。
第三者算定書の最近の傾向としては、算定書で開示される情報範囲が拡大される傾向にあります。例えば、算定書の中でWACC(割引率)を開示する事例が増えており、平成20年の開示6件に対し、平成21年は20件と約3.5倍になっています。
第三者算定機関の株式価値算定書については、守秘義務の関係から、算定結果と前提条件について限定した形での開示が行われてきました。しかし、スクイーズアウトに反対する少数株主からの株式買取請求事件が多発する現状において、価格決定の透明性に関する市場の要求が高まっています。上記の事実は、このような要求を受けて、情報開示の範囲が拡大される傾向にあることを示すものと考えられます。
しかしながら、少数株主からの株式買取請求訴訟において過大な責任を追及される可能性に対する懸念から、第三者算定機関の中には詳細な開示に対して消極的な姿勢をとる機関も少なくないという現状もあります。よって、今後は価格決定の透明性を高め、TOBに係る訴訟リスクを最小化する観点から、情報開示に耐えうるロジックと訴訟におけるノウハウを有する算定機関を選定することが重要になるものと考えられます。
【第三者算定機関ランキング】
平成20年および平成21年の公開買付において、第三者評価を行った算定機関ランキングは以下のとおりです。
また、公開買付届出書に算定書を添付した第三者算定機関ランキングは以下のとおりです。
以上
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