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No.
37
セカンド・オピニオンとしての算定書
I. 算定書を複数取得する実務は例外的なものか
公開買付け、合併、株式交換などに際しては、価格決定の公正性を担保する観点から、第三者機関による算定書を入手するのが一般的です。近年、この算定書を複数の第三者機関から入手する事例が散見されます。
複数の第三者機関から株式算定書を取得した事例は、それほど多いわけではありません。例えば、昨年以降に開始された公開買付けのうち、該当する事例は平成23年で70件中3件 、平成24年で58件中1件 に過ぎません。しかし、Plutus+レポートVol. 28「我が国におけるフェアネス・オピニオンの取得の背景:事例分析を中心として」において取り上げた、平成24年7月以前の一年間におけるフェアネス・オピニオンの取得事例12件を対象として集計すると、該当する事例は3件 となり、件数は少ないながらも無視できない割合になっています。
II. 取得の背景に関する考察
このように、フェアネス・オピニオンが取得される事例に関する限り、少なからぬ事例で複数の算定書が取得されているということが分かります。
一般に、フェアネス・オピニオンが取得される事例においては、支配株主との取引など利益相反構造が存在していたり、複雑または大規模な経営統合を実施するなどの背景が存在しています。これらの事例において、複数の第三者機関による算定書を取得する傾向がより顕著にみられるのは、取引が株主に与える影響の重要性、取引に内在するリスクの高さなどを勘案した結果、より慎重な手続きを期した結果であると推測することができます。
III. セカンド・オピニオンとしての算定書が適合する状況
複数の算定書を入手することは、企業価値をより多角的な視点から分析することを意味し、価格決定の公正性をより強固に担保する意義を有します。とはいえ、フェアネス・オピニオンや独立委員会の答申が、第三者機関による算定書と異なる観点から取引価格の公正性を担保する効果を有する一方、複数の第三者機関から算定書を入手するという手続きは、ともすれば手続きの重複となりかねません。したがって、この手続きがどのような場合に適合するかを理解した上で、セカンド・オピニオンの必要性を検討するのが望ましいと考えられます。
複数の算定書を入手した興味深い事例として、昨年実施されたカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社のMBO目的による公開買付けが挙げられます。本件では、対象者の委嘱を受けた独立委員会が組成され、対象者の取締役会と独立委員会がそれぞれ別個の第三者機関から算定書を取得しました。その背景には、独立委員会が公開買付者との価格交渉を含む広範な権限を委嘱されていたという事情があります。
MBOにおいては特に顕著な利益相反構造が存在することから、独立委員会が価格決定に一定程度関与することは、価格決定の公正性を担保する上で有用と考えられ、その前提として独立委員会が取締役会とは別個に算定書を取得する必要性は高いと考えられます。
我が国において、このような形態で複数の算定書が取得された事例は以後出現していないものの、米国においては一般的な手続きともいわれており、今後の実務の動向が注目されます。
以上



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