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のれん非償却ならM&A利益圧迫は防げるのか? ~2026年会計審議を受けたPPA実務とIFRS・日本基準の比較分析~(2026年9月号)

はじめに
企業会計基準諮問会議(2026年7月)における審議の結果、日本基準への「のれん非償却の導入」についての提言は見送られ、日本基準においては今後も「のれんの定期償却(20年以内の定額法等による償却)」が維持される方針が決定されました。
スタートアップ企業・経営者有志から「現行の日本基準による「のれんの定期償却」が、企業によるM&A実施の障害(利益圧迫要因)になっている」という提言を発端に1年近く議論されてきましたが、「のれんの非償却」を採用する結論には至りませんでした。
しかし、仮にIFRS同様に「のれんの非償却」が採用されたとしても、(現状の償却ルールが継続したとしても、)M&Aの利益圧迫が防げるかの観点ではその後のPPAまで含めて検討する必要があります。
本稿ではM&A実施後において必要となる会計上の手続きである「PPA(Purchase Price Allocation:取得原価の配分)」を中心に、IFRSと日本基準との対比も含めどのような点に留意して進めるべきか、説明していきたいと思います。
1. PPAとは
PPAとは、取得原価を被取得企業から取得した識別可能な資産・負債に企業結合日時点の時価で配分し、配分しきれない差額をのれん、または、負ののれんとして処理する手続きのことです。本手続きの目的は、買収金額が、具体的にどのような価値に対して支払われたのかを明確にし、ステークホルダーに対する情報提供を行うことです。本手続きを通じて、識別可能な資産・負債の中には、被取得企業の貸借対照表には計上されていなかった無形資産も含まれ、被取得企業の有する顧客関係(顧客リスト)、ブランド(商標権)などを識別し、認識します。なお、IFRS3号では、次の無形資産が例示列挙されています。
- マーケティング関連無形資産
- 顧客関連無形資産
- 芸術関連無形資産
- 契約に基づく無形資産
- 技術に基づく無形資産
次節では、日本基準とIFRSでのPPAにおける差異を中心に解説したいと思います。
2. 日本基準とIFRSの基準間差異
基準間比較表に記載の通り、無形資産の識別要件について、形式上は契約法的規準も重視するIFRSの方が広範に定義されていますが、実務上は日本基準においてもIFRSの例示等を参照して判断するため、両基準間で実質的な差異はほぼ生じません。
一方、無形資産の償却処理においては明確な相違が存在します。日本基準ではすべての無形資産が償却対象となるのに対し、IFRSにおいても原則として償却を行うものの、特定の条件を満たす場合には「非償却」が認められます。具体的には、無形資産が企業への正味のキャッシュ・インフローをもたらすと期待される期間について「予見可能な限度がない」と判定される場合に限り、耐用年数を確定できない無形資産として非償却資産として取り扱われます。(IAS第38号)
【基準間比較表】

3. IFRSにおけるPPA時のPL影響額に関わるシミュレーションと留意事項
【数値シミュレーションの前提】
- 広義のれん(無形資産識別前ののれん):100
- 狭義のれん:無形資産識別後ののれん
- 技術資産の償却期間:5年
- 商標権の償却の取り扱い:非償却資産を想定
- 税効果:考慮しない

(※1)無形資産を非償却とした場合には、毎年減損テストを実施する必要があることから実務上の負担が生じる点と、償却されないまま保持された帳簿価額が一括で減損損失として顕在化し、PLへ重大な影響を与えるリスクに留意が必要である。
説明の便宜上、前述の前提の通り「全額のれん」「全額非償却資産」「全額償却資産」という極端なケースで試算していますが、PPAにおいて識別される無形資産の種類やその耐用年数(償却期間)は、買収後のPLに大きく影響します。IFRSではのれん自体は非償却ですが、PPAの結果として「無形資産が一切識別されず全額のれんとなるケース」は実務上きわめて限定的です。通常のM&Aでは、顧客関連資産、技術、商標権等の無形資産が識別され、日本基準におけるのれんと同様に毎期の償却費が発生するケースが多く見られます。これは、買収対価のすべてを「シナジーや集合的労働力等(※2)」のみとして論理的に説明することは難しく、特定の無形資産を獲得する目的で買収が行われることが多いためです。
したがって、単に「のれんが非償却になるか否か」にかかわらず、PPAにおいてどのような無形資産が識別され、それらの耐用年数がどう設定されるかまでを見据えた精査が不可欠です。
とりわけ取得価格と純資産の差額(広義のれん)が多額となる案件では、買収後の損益に与える影響が大きくなるため、買収実行後に初めてPPA処理の検討を行うのではなく、デューデリジェンスや買収の交渉段階からPL影響を試算する「Pre-PPA(事前PPA試算)」を実施し、買収後の業績予測の確実性を高めておくことが強く推奨されます。
(※2)日本基準では「法律上の権利等による裏付けのない超過収益力、事業に存在する労働力の相乗効果(リーダーシップ、チームワーク)」、IFRSでは「集合的労働力、将来の潜在的顧客関係、シナジー効果等」として例示されます。
おわりに
本稿ではM&A後の会計手続きとして「のれんの償却・非償却」を切り口にPPAに関して解説しました。PPAは取得価額を配分する手続きであることから、買収時における株価算定、さらにはPPA後に実施される減損テストまで一貫した整合性が求められます。
近年では買収検討段階からPPAの影響を事前に試算する「Pre-PPA(事前PPA試算)」を実施する企業も増えています。M&A戦略を成功させるためには、各フェーズに応じたサービスを一気通貫で提供できる専門家を選ぶことが重要です。
参考文献
・公益財団法人 財務会計基準機構『第57回 企業会計基準諮問会議議事概要』
執筆者紹介
野田 明臣 < フィナンシャル・アドバイザリー部 ダイレクター 公認会計士 >
大手監査法人にて会計監査に従事後、事業会社にてIFRS導入から決算業務、監査対応、子会社管理業務を経験。現在、株価算定、PPA等のバリュエーション業務及びデュー・ディリジェンス業務の他、会計アドバイザリー業務に従事。
福森 智久 < フィナンシャル・アドバイザリー部 マネジャー 公認会計士 >
大学を卒業後、大手監査法人を経てプルータス・コンサルティングに入社。監査法人では、監査業務に従事したのち、大手金融機関の在外子会社の連結決算支援業務及びPPA、のれんの減損テストなどの会計関連アドバイザー業務を中心に関与。現在は、株価算定業務を中心に従事。
株式会社プルータス・コンサルティング 広報担当
〒100-6035 東京都千代田区霞が関3-2-5 霞が関ビルディング35階
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