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エクイティファイナンス

種類株式(非上場会社、みなし清算条項)

裁判所が考える株式価値とは-上場会社のMBO等の場合

はじめに

前回の「裁判所が考える株式価値とは-非上場株式の場合」に続いて、「裁判所が考える株式価値とは-上場会社のMBO等の場合」を考えてみたい。本稿では、上場会社のMBO(マネジメント・バイアウト)等に反対する株主が価格決定を申立てる事案を前提にした上場廃止会社の紛争事例を対象とし、当該紛争事案の中でも上場廃止前の市場株価に基づく価格決定がなされた事例を取り上げ、判例において採用された価格決定の考え方について検討する。

1. MBOとスクイーズ・アウト

MBOにより上場廃止となる会社が増えている。MBOとは、経営陣による企業買収を意味し、通常、経営者が支配する投資会社が、対象会社の将来キャッシュ・フローを返済原資とした借入を利用して企業買収することが一般的である1)借入金を梃子(lever)として、投資金額を抑える企業買収は、LBO(Leveraged Buyout、レバレッジ・バイアウト)と言われ、MBOはLBOの形態をとることが多い。。また、経営者とファンドが共同で企業買収するケースも多く、このようなケースもMBOと言われることが多い。
MBOは、機動的な意思決定を目的として経営者が企業買収するものであり2)経済産業省の企業価値研究会による「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する報告書」(MBO報告書)では、MBOが行われる実際上の狙いとして、市場における短期的圧力を回避した長期的思考に基づく経営の実現や、株主構成が変更されることによる柔軟な経営戦略の実現、「選択と集中」の実現等が指摘されていること等があげられている。、この目的達成のために全ての発行済株式の保有を目指す。現在のMBO実務においては、「公開買付けの下限としての設定は行わないが、公開買付け後に完全子会社化(スクイーズ・アウト)を行う場合には、公開買付けにおいて90%程度の応募があることが望ましいと考えられているとの指摘がある。」3)MBO報告書19頁脚注16とされる。これは、90%程度の株主がMBOに賛同しなければ、スクイーズ・アウトを行うことが望ましくないとの考えが根底にあるものと考えられている。
ここでのスクイーズ・アウトは、少数株主を追い出す行為を意味する。平成18年施行の会社法は全部取得条項付種類株式の規定を設けたことにより、このスクイーズ・アウトが行いやすくなった。MBOが増加したのは、この制度改正も大きな要因の1つと考えられる。一方で、全部取得条項付種類株式の取得に反対する株主は、会社法172条1項に基づいて全部取得条項付種類株式の取得価格の決定を裁判所に求めることができるため、MBOを実施する際には、株式の価格決定を巡る紛争が起こる可能性があり、MBO等による上場廃止の増加に伴い、株式の価格決定を巡る紛争が一定程度発生している。

2. 紛争事例の分析

平成18年の会社法施行以前のスクイーズ・アウトに関わる裁判例として、カネボウの紛争事例がある。カネボウの事例では、東京地裁の選任した鑑定人がDCF4)ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法とも呼ばれ、将来のキャッシュ・フローを資本コストで割り引いた現在価値によって事業価値を評価する手法である。法による鑑定を行い、裁判所がその鑑定結果を採用することで価格決定がなされている。
その後、平成18年に施行された会社法に基づくスクイーズ・アウトに際しての初の裁判として、「レックス・ホールディングス全部取得条項付種類株式取得決議反対株主の株式取得価格決定申立事件」(以下「レックス事例」という。)が注目された。また、これに続く事例として、「サンスター全部取得条項付種類株式取得決議反対株主の株式取得価格決定申立事件」(以下「サンスター事例」という。)があり、この2つの事例では、上場廃止前の市場株価に基づいた決定がなされている。以下ではこれら2つの事例を題材として、市場株価をベースにした価格決定事案における裁判所の一定の考え方について検討する。

2. 1レックス事例からみる市場株価に基づく価格決定の考え方

レックス事例は、平成19年3月28日開催の株主総会における全部取得条項付株式の取得決議に反対した申立人が、会社法172条に基づき、申立人らが有する全部取得条項付株式の取得価格の決定を裁判所に申し立てたものである。日本公認会計士協会経営研究調査会の研究報告「事例に見る企業価値評価上の論点−紛争の予防及び解決の見地から−」は、本事例における取得価格に関する当事者の主張及び裁判所の判断の概要を表1のようにまとめている。

<表1レックス事例における評価全般の概要>

(出所:日本公認会計士協会経営研究調査会研究報告第41号「事例に見る企業価値評価上の論点−紛争の予防及び解決の見地から−」16頁)

東京地裁が決定した取得価格は、取得日における当該株式の客観的な時価に加えて強制取得により失われる今後の株価上昇に対する期待権を評価した価額を考慮した額をもって公正な価格としている。東京地裁の決定要旨は次のとおりである。

公正な価格を定めるにあたっては、取得日における当該株式の客観的な時価に加えて強制取得により失われる今後の株価上昇に対する期待権を評価した価額をも考慮することが相当である。
その上で、客観的な時価について、特別の事情がない限り、評価基準時点(全部取得条項付株式の取得日である平成19年5月9日)にできる限り近接した市場株価を基本として本件株式の客観的な時価を評価すべきである。
この場合の時価については、MBOの一環として行われたAP8(買付者)による公開買付が公表された平成18年11月10日以降においてはその影響により旧レックスの客観的価値を反映していないと認められる特別の事情(公開買付価格を230,000円としたことから裁定が働き株価もおおむね210,000円から230,000円の範囲で推移しており、出来高も極めて少ないこと)があることから、これを基礎とすることは相当ではない。
したがって、業績下方修正等の発表がなされた平成18年8月21日の翌日から同年11月9日(公開買付の発表の前日)までの間の一定期間の株価の終値の平均値をもって、平成19年5月9日における本件株式の客観的な時価とするのが相当である。
一定期間の株価の終値の平均値は、以下のとおりであり、本件株式の客観的な時価は1株当たり202,000円を超えるものではない。レックスは、公開買付価格203,000円は、平成18年11月9日までの過去1ヶ月間の市場株価終値の単純平均値202,000円に対して13.9%のプレミアムである28,000円を加えた価格であると説明したこと及び本件公開買付に対して91.78%の株式を有する株主が賛同したこと等により、公開買付価格は、AP8(買付者)に一方的に有利なものではないことが窺われる。このような事情に照らせば、本件公開買付価格は、市場において一定の合理性を有するものとの評価を受けたと推認することができる。
したがって、本件における強制的取得により失われた期待権を評価した価額は、1株当り、本件公開買付のプレミアム分に相当する28,000円を超えるものではないというべきである。
以上の検討により、平成19年5月9日における本件株式の客観的な時価(202,000円を超えない)に強制的取得により失われた期待権を評価した価額(28,000円を超えない)を加えたとしても、それが230,000円を上回るものとは認められず、本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件における全部取得条項付種類株式の取得の価格を23万円と定めるのが相当である。

東京地裁の決定要旨は、「公正な価格=客観的な時価+今後の株価上昇に対する期待権」としているが、要は、90%超の株主が応じた公開買付けであるならば、公開買付価格に一定の合理性があることを認めたもの考えたものと推察できる。この公開買付価格を公正な価格として採用するための論拠として「公正な価格=客観的な時価+今後の株価上昇に対する期待権」と説明しているものである。

2. 2市場株価に基づく公正な価格の考察

レックス事例では、市場株価に基づいて公正な価格を決定するにあたって、「公正な価格=客観的な時価+今後の株価上昇に対する期待権」としており、サンスター事例においても同様の考え方が採用されている。以下では、それぞれの事例について「客観的な時価」と「今後の株価上昇に対する期待権」に関し裁判所がどのような考え方を採用したかについて検討する。

2. 2. 1客観的な時価

いずれの裁判例においても、「客観的な時価」が市場株価によって決定づけられるという考え方については一致しているのに対して、市場株価を参照すべき期間については判断の相違がみられる。

2. 2. 1. 1 レックス事例

裁判所が決定する客観的な時価は、当然に市場株価を参照して決定される。その際採用する市場株価としては、基準日の終値と、基準日から遡る過去一定期間の平均株価のいずれかが考えられる。レックス事例では、「業績下方修正等の発表がなされた平成18年8月21日の翌日から同年11月9日(公開買付の発表の前日)までの間の一定期間の株価の終値の平均値をもって、平成19年5月9日における本件株式の客観的な時価とするのが相当である。」としているが、できる限り評価基準日に近接した株価を算定するという観点から、この期間より短い1か月の平均値も参考とし、この平均値をベースに客観的な時価を決定している。
上記の考え方からも明らかなように、公開買付け発表後の市場株価は、公開買付価格の水準に張り付くことから、客観的な時価の算定にあたっては、公開買付け発表前の市場株価が参照されている。
また、東京地裁は、市場株価の平均値を求める参照期間として、株価に重要な影響を与える情報が最後に公表された日以後を参照するように考えている。これは、株価形成に与える情報が基準日と同質である期間を採用すべきという考え方に基づくもので、レックス事例では、平成18年8月21日に発表された業績下方修正等が、株価に重要な影響を与える評価基準日直近の情報であるとしている。
これに対し、東京高裁では、平成18年8月21日に公表した資産の減損による損失によって生じた業績下方修正は、株式の価値に影響を与えるものではないと判断し、東京地裁よりも長い期間である6か月間にわたる市場株価の平均値を採用した。その結果、客観的な時価は東京地裁の決定した202,000円よりも高い280,805円になっている。しかし、事業資産の減損は、本来、事業資産の使用によって得られる将来のキャッシュ・フローの低下が予想されることをもって事業資産の評価を切り下げるものであることから、筆者は業績下方修正等の発表がなされた平成18年8月21日の翌日以後の平均値を採用した東京地裁の判断の方が適切であると考えている。
高裁決定において、地裁決定に比べ会社側に不利な決定がなされた背景としては、株式価値の形成要因に関する納得性のある主張を会社側が裁判所に対して尽くせなかったことが考えられる。会社法における裁判所の価格決定は、裁判所の裁量によって決まるものである以上、株式価値の決定要因について説得力を有する一貫性した理論構成を持たなければならないということは、本事例における教訓の一つといえよう。
ここで、会社側が斟酌した株式価値の決定要因について説明する資料として考えられるのは、公開買付価格の決定にあたって取得した株価算定書である。しかし、レックス事例では、経営上の機密情報である事業計画の内容が含まれるなどの理由により、株価算定書が裁判において開示されなかった。このことも会社側にとって不利な状況を招いた一因と考えることができる。

2. 2. 1. 2 サンスター事例

大阪地裁は、MBO 計画公表前6ヶ月間の終値単純平均値548円を客観的な時価として採用している。本件も、レックス事例同様、MBOの公表前に業績の下方修正を公表した事例であるが、大阪地裁の決定では、業績下方修正公表を「市場株価を適切に形成するための適時開示にすぎ」ず、「本件下方修正により市場株価に大きな変動があったということもできないから、本件下方修正をもって特段の事情とすることはできない」としている。この考え方によると、市場株価に大きな変動がない限り、6ヶ月間の平均値を用いるということになるが、これでは、株価の変動から参照する期間を決定することになり疑問が残るところである。
さらに大阪高裁は、「MBOの準備を開始したと考えられる時期から、公開買付けを公表した時点までの期間における株価については、特段の事情のない限り、原則として、企業価値を把握する指標として排除すべきものと思料される」とした上で、MBO計画公表前1年間は企業価値を把握する指標としては排除し、1年前の株価700円を客観的な時価として採用している。大阪高裁は、この根拠を「MBOを計画する経営者は、株主に対してはその利益を図るべき善管注意義務がありながら、MBOが実施された際、あるいはその後の再上場を行う際に、自己の利益を最大化するため、対抗的公開買付けを仕掛けられない範囲で、自社の株価をできる限り安値に誘導するよう作為を行うことは見やすい道理であることから(以下、本件下方修正は、株主に対する利益配当を回避し、株価の安値誘導を画策する工作の一つではないかと疑われる等のことを記載しているが、詳細は省略)、相手方については、MBOの準備を開始したと考えられる時期から、公開買付けを公表した時点までの期間における株価は、特段の事情がない限り、原則として、企業価値を把握する指標として排除すべきものと思料される。」と説明している。
この説明は、MBOを計画する経営者が、株価操作という違法行為を行なっていることを前提としており、疑問が残るところである。
この点については、最高裁による特別抗告棄却の決定5)会社側は、大阪高裁の決定に対して最高裁判所への抗告許可申立を行ったが大阪高裁によって不許可決定がなされ、更に当該不許可決定に対する最高裁判所への特別抗告を行ったが、棄却され大阪高裁の決定が確定している。に際し、田原睦夫裁判官の補足意見として、上記の株価の採用期間については最高裁において慎重に審議すべき事項である旨が記載されている。同裁判官の意見では、「会社法172条1項の『取得の価格』の算定に当たり、いかなる事項をその判断要素とし、その各要素をいかに位置づけるかは、『取得の価格』の算定に関する法令解釈そのものである。かかる問題については、抗告審の決定をそのまま是認した最高裁判所の裁判例(最高裁平成20年(ク)第1307号、同年(許)第48号同21年5月29日第三小法廷決定の金融・商事判例1326号35頁)6)レックス事例の判例である。があるにとどまり、現在、下級審においては様々な決定がされているところである。その中で、原々決定のように、『取得の価格』の算定においてMBO準備期間の市場価格を除くべきであるとする決定例はなく、その点をどのように考えるかは、『取得の価格』についての法令解釈そのものであり、かつ、その算定結果に及ぼす影響の大きさからして、『法令の解釈に関する重要な事項』に該るものと認められる。」とし、「本件における抗告許可の申立て理由は、いずれも『法令の解釈に関する重要な事項』を含むものであると認められるものであるにもかかわらず、その申立てを不許可とした原決定は相当でないと思料される。」としており、大阪高裁の不許可決定を批判している。

2. 2. 2 今後の株価上昇に対する期待権
2. 2. 2. 1 レックス事例

東京地裁は、公開買付価格の市場株価に対するプレミアムを、今後の株価上昇に対する期待権であるとみなしている。すなわち、レックス株式の公開買付価格230,000円は、平成18年11月9日までの過去1ヶ月間の市場株価終値の単純平均値202,000円に対し13.9%のプレミアムである28,000円を加えた価格であるが、当該プレミアム部分を今後の株価上昇に対する期待権としている。この東京地裁の考え方は、実態的には、公開買付価格と株式の客観的な時価すなわち市場株価との差額をもって「今後の株価上昇に対する期待権」とするものであり、結果的に公開買付価格230,000円の水準をもって「公正な価格」としている。
一方、東京高裁は、会社側がこのようなプレミアムを設定した具体的な根拠については特に主張立証をせず、事業計画や株価算定書の提出もしないという事情に鑑み、(本件MBOと近似した時期におけるMBOのプレミアム等を考慮して)客観的な時価(6ヶ月平均の280,805円)に20%を加算した額(336,966円)を株式の取得価格と認めるのが相当であるとして、結果的に公開買付価格230,000円を上回る価格決定がなされている。
この20%は、裁判所の裁量により決定されているが、この決定にあたっても株価算定書を提出しなかったことが会社にとって不利な状況を招いたものと考えることができる。

2. 2. 2. 1 サンスター事例

サンスター事例においても、レックス事例と同様、大阪地裁決定では取得価格は公開買付価格と同額であるとされているが、大阪高裁においては裁判所がその裁量で価格を決定すべきとした上で、期待権の対価として客観的価値の20%を上乗せした価格を取得価格とすべきとし、結果的に公開買付価格650円を上回る840円で決定している。

2. 2. 3 あるべき価格決定に関する私見

レックス事例及びサンスター事例においては、いずれも地裁では公開買付価格と同水準の価格で、高裁では公開買付価格を上回る価格で決定がなされている。
両事例において地裁で決定された価格は、公開買付価格と同水準であり、結果的に公開買付価格が公正な価格として認定されたものと解釈できる。一方、高裁で決定された価格は公開買付価格を上回っている。客観的な時価に期待権を加えた額をもって価格決定がなされるとする考え方については、地裁決定も高裁決定も共通しているものの、客観的な時価の算定根拠となる市場株価の平均値の参照期間は裁量によって決定されており、期待権も他社事例を参考にして裁量で決定されている。その根拠については疑問が残る点もあり、サンスター事例では、最高裁はこの点について暗に批判している。
このように、客観的な時価に期待権を加えた額をもって価格決定する論理は、多分に裁判官の判断に依存する面が多いことから、本来は、公開買付価格の根拠となった株式価値算定書やスクイーズ・アウトの基準日現在で改めて取得した株式価値算定書に基づいた検討により価格決定することが望ましいのではないかと考える。その意味では、裁判所の選任した鑑定人によるDCF法に基づく鑑定結果を採用したカネボウ事例が、本来、あるべき価格決定ではないかと筆者は考えている。
なお、レックス事例及びサンスター事例のように会社又は会社側の算定機関が株価算定書の開示を認めず、株価算定書が非開示のまま裁判所が価格決定するケースが多く存在しているが、非訟事件手続法(新法)が平成25年1月1日に施行され、株主は裁判所に対して文書提出命令の申立てを行うことができるようになり、会社は株価算定書の開示を拒否することが基本的にできなくなる。この法改正により、今後、株式の価格決定が裁判で争われる場合には、市場株価を中核とする論争から、株価算定書による算定過程を中核とする論争へ移行することが予想される。その結果、今後は株価算定書が開示される事例が増加するとともに、より客観性・合理性を追求した算定が求められることから、取締役の善管注意義務の観点から、信頼のおける評価機関を慎重に選定することにより一層留意する必要があろう。

以上

みなし清算条項を付した種類株式と公正価値評価 -種類株式の活用場面と留意点-

1. はじめに

米国に比べ事例数はまだまだ少ないものの、我が国のベンチャー投資においても種類株式が採用されるケースは散見されるようになった。これは、会社法上の種類株式を活用することによって、株主の権利関係を明確にすることの重要性を認識するベンチャー・キャピタル(VC)が増えつつあること等によるものと考えられる。
米国におけるベンチャー投資では、M&Aによるエグジットが多いため、種類株式を用いた投資、特に「みなし清算条項」と呼ばれる条件を設定した種類株式による投資が一般的である。また、我が国の会社法上、「みなし清算条項」は種類株式の内容にあたらないとする見解が有力ではあるものの、会社法規定の解釈論により「みなし清算条項」を付した種類株式の発行が可能との説もある(5頁「4. みなし清算条項とは何か」)を参照」。また、株主間契約等に同様の条項を設定することにより、同様の効果を狙ったベンチャー投資のスキームが増加し始めており、「みなし清算条項」の有用性に一定の理解が高まっている。なお、株主間契約等に「みなし清算条項」等を規定し発行した株式を、便宜的に、種類株式として取り扱って解説する文献も存在する(日本公認会計士協会経営研究調査会研究報告第53号「種類株式の評価事例」)。
本レポートでは、上記のようなスキームを含む広義の種類株式とは何かについて簡単に触れたのちに、どのような内容が種類株式の価値に影響を与えるのかについて説明を行う。普通株式と種類株式の価格差については、価値評価に最も織り込みやすい「みなし清算条項」を基に明示する。その上で、VC投資時におけるストック・オプションの行使価額に関する問題点を指摘し、その解決策として種類株式を活用できる旨の説明を行う。最後に公正価値を下回る価格で種類株式を発行した場合の課税リスクについて触れ、公正価値評価の重要性を述べる。

2. 種類株式とは何か

厳密には、種類株式は会社法にその定義が定められており、会社法第108条第1項各号に掲げる事項について内容の異なる株式のことを言う。具体的には、第1号乃至第9号に記載のある剰余金の配当(第1号)、残余財産の分配(第2号)、議決権制限株式(第3号)、譲渡制限株式(第4号)、取得請求権付株式(第5号)、取得条項付株式(第6号)、全部取得条項付種類株式(第7号)、拒否権付種類株式(第8号)、役員選任権付種類株式(第9号)の9つで規定された株式を言う。各種類株式の説明は以下の通りである。

また、上記のほかにも、会社法で規定されているわけではないが、類似の効果をもたらす契約等もある。投資家サイドが投資に際して求める権利として、会社法には定められていないが株主の権利として定款若しくは株主間契約で規定することが認められている内容までも含めて「種類株式」と呼ぶ研究報告(日本公認会計士協会経営研究調査会研究報告第53号「種類株式の評価事例」)もある。本レポートではこれらを「広義の種類株式」として取り扱う。広義の種類株式として類似の効果をもたらす主な権利は以下の通りである。

出所: 「日本公認会計士協会」資料等を基にプルータス・コンサルティング作成

3. 種類株式の公正価値評価

種類株式の価値は、当該株式保有者が受け取るキャッシュ・フローの金額を見積もり、割引計算を行った現在価値をもって評価することが一般的である。また、普通株式との権利の違いに着目し、その経済的価値を普通株式の価値に加算した値を種類株式の価値として評価する手法もある。種類株式には、前述のとおり様々な内容を付すことができるが、一方で定量的に価値を測定することが困難な権利も多い。以下の表は、投資先がベンチャー企業である場合を前提として、どのような内容や権利ならば価値に織り込めるのかについて示したものである。


注記: 「×」は「評価には織り込めない」、「○」は「測定可能(状況により測定できない場合も含まれている)」ことを示している

実務では、様々な権利の中でもキャッシュ・フローに直接的に影響を与えるような内容や条件に着目して評価を行う。拒否権や役員選任権などのキャッシュ・フローに与える影響を直接的に把握できない権利については評価上、考慮しないことが一般的である。
ただし、キャッシュ・フローに直接的に影響を与えると思われる権利であっても、発行企業の状況に応じて、定量的な評価を行うことが困難な場合がある。例えば、剰余金の配当、残余財産の分配に関しては、ベンチャー企業はIPO前に配当を行うことを想定していないこと、解散による清算の手続きを想定していないことから、評価には通常織り込まない。取得請求権付株式は、自己株式の財源規制を理由として分配可能額の範囲でしか発行企業は取得することができないため、ベンチャー企業に対し現実的に取得請求権を行使することが難しいことから、評価に織り込める範囲は限定的であると考えている。希薄化防止条項は、ダウンラウンド・ファイナンス(投資家が払い込んだ際の払込み価額より低い価額での新規の株式の発行)の際に適用される条項であり、特に未上場企業の場合は複雑なシミュレーションが必要となるため、評価の計算に実務上織り込む例は少ない。
みなし清算条項は、主に会社法に規定される種類株式の残余財産優先分配権と同じ効果を解散以外のエグジットの場合にも実質的に確保する目的として用いられる。様々な種類株式の条件の中でも、最も価値に織り込みやすく、普通株式との差を説明しやすい条件である。次節では、みなし清算条項について、掘り下げて説明する。

4. 「みなし清算条項」とは何か

「みなし清算条項」とは、「合併、株式交換等、支配権の移動に伴って取得された対価を「残余財産」とみなし、優先的に残余財産分配を受ける権利を有するものに、優先順位に従って分配する処理を認めるもの」を言い、米国では種類株式の雛形として採用されている一般的な内容のものである。我が国の会社法では、合併が残余財産の分配に関する条項(会社法108条1項2号)に該当すると解釈することはできないと解する説が有力であることから、「みなし清算条項」付種類株式の普及が遅れている。
しかしながら、「会社法は、合併で消滅する会社が種類株式を発行している場合には、合併契約において、消滅会社の株主に対する株式等対価の割当てについて株式の種類ごとに異なる取扱いを認めています(会社法749条2項、753条2項)。この規定を前提に、優先株主に対して残余財産分配の優先額に相当する対価を優先的に交付する旨を『あらかじめ』定款に規定することも可能とする余地があるように思われます。」7)[1] 「ベンチャー企業の法務・財務戦略」(宍戸善一 ベンチャー・ロー・フォーラム(VLF)編著、商事法務刊)第7章 ベンチャー・ファイナンスにおける投資契約(棚橋 元)277頁と考える説も出ていることから、最近では、投資家サイドが投資に際して求める権利として、「みなし清算条項」を定款に規定し種類株式として発行する事例も出ている。
「みなし清算条項」によって投資家はエグジットの可能性が高まるので、投資家に有利な条項と考えるのが通常であるが、企業側にとっても普通株式と種類株式の価格差の根拠を示せるなどプラスの面もある。価格差を示す根拠については次節で説明する。

5. 普通株式と種類株式の価格差の根拠

本節では、普通株式と種類株式の価格差を説明する。ケース・スタディとして、架空のベンチャー企業がVCから総額150百万円(1株5万円)の投資を受ける際に種類株式で調達する場合のペイオフを考える。VC投資後の資本構成は以下の通りとする。

種類株式の主な条件は以下の前提を置く。

当該種類株式の普通株式との違いは、みなし清算条項の条件のみとなっている。みなし清算条項は、残余財産優先分配権の定義に従って付している。本例では残余財産優先分配権は発行価額の1倍に設定している。これにより、M&Aが発生した場合を「清算」とみなし、種類株主はその対価を「残余財産」とみなし「残余財産」から優先的に発行価額の1倍を受け取ることができる。なお、「参加型」とは、種類株主であるVCが、自身への分配分を受け取った後、更に残余財産がある場合、普通株主と同時に追加的な残余財産を受け取る事ができる条件のことを言う。

この場合のエグジット金額に応じたVCの分配額を以下の通りである。

図表: エグジット金額に応じた分配シミュレーション

上図は、普通株式を有する創業者と経営陣に先立ってVCが優先分配額(150百万円)を受け取り、残りのエグジット金額については、議決権比率(VCは30%)に応じて按分した場合の分配額を示している。

ここで仮に、残余財産優先分配権を0倍、すなわち普通株式と同条件にした場合の分配額とみなし清算条項を付した本種類株式の1倍の場合に分けると、VCの分配額は、以下のように異なる。

図表: 残余財産優先分配権の倍率別のVCの分配額

このとき、残余財産優先分配権1倍と0倍の場合の差額は、みなし清算条項を付すことによって得られる経済的価値の違いである。それは以下の図の紫色の面で示すことができる。

図表: エグジット金額に応じた各株式の経済的価値

みなし清算条項を適用することによって、買収によるエグジット総額が投資金額(150百万円)を下回らない範囲であれば、VCは投資金額を回収できるので、その分だけ普通株式に比べて経済的価値が高くなる。このとき、普通株式の評価を基礎として、みなし清算条項を評価する場合、種類株式の分配額の期待値と普通株式の分配額の期待値の差を、普通株式の価値に加算した値が種類株式と考えることができる。つまり、当該種類株式の価値は「普通株式の価値 + みなし清算条項の価値」として分けて示すことができる。

6. 企業側にとっての種類株式の活用場面

前節では普通株式と種類株式の価格差に関する根拠を確認した。本節ではこの価格差を、ストック・オプションの行使価額対策として活用できることを説明する。
ストック・オプションとは、会社が決めた価格で株式を購入できる権利のことを言い、会社が報酬として役職員や従業員に無償で付与されることが一般的である。ストック・オプションの発行時よりも株価が上がれば、付与された役職員はキャピタル・ゲインを得られる仕組みである為、インセンティブ・プランとして活用されている。
しかしながら、税制適格要件と呼ばれる税制上の優遇措置を受ける為には、株式の時価よりも高い価格に行使価額(株式を購入できる価格)を付与時に設定されていることを満たしていなければ、税務メリットを享受することができない。税制適格要件を満たしていなければ、権利行使時において、株価と行使価額の差が給与課税となり、平成27年1月から最大で55%を税金として支払う可能性がある。行使された後、株価が上がれば資金は回収することができるが、株価が下がってしまうと税金の払い損となってしまう。

図表: 税制適格要件を満たさないストック・オプション(取得者が個人の場合)

ストック・オプションは、会社法上必要な手続きを踏めば、どのようなタイミングでも付与することは法務手続き上可能であるが、ベンチャー企業の場合はVCによる投資のタイミングで付与することが多く見られる。
ストック・オプションは行使価額を低く設定するほど、インセンティブ・プランとしての効果が得られやすい仕組みであるものの、高い株価での増資を検討するベンチャー企業の場合は、その効果を十分に得られない可能性がある。このため、増資のタイミングを避け、事前に役職員に付与するケースもあるようだが、既に近い将来増資の計画がなされている場合には情報の取り扱いに特段の注意が必要となる。また、優秀な人材の確保が課題となっているベンチャー企業にとって、ストック・オプションは、キャッシュ・アウトを伴わない報酬として利便性が高いが、VCから資金調達を行うにあたって役職員に付与する場合に行使価額がその投資時の普通株式の時価に引っ張られてしまう為に十分に効果を得られないとの指摘が従前から存在する。
このような場合の対策として、種類株式を活用することができる。1株1万円で普通株式を出しており、1株5万円で普通株式を発行するタイミングで同時にストック・オプションを発行するならば、税制上の優遇措置を受けるためには行使価額を5万円以上に設定しなければならないところ、1株5万円で種類株式を発行するならば、普通株式との価格差を合理的に説明できるようになるので、種類株式の発行と同じタイミングで行使価額1万円のストック・オプションを付与することができるようになる。
種類株式を用いて資金調達を行うことによって普通株式と種類株式の価格差が説明を付けられるようになれば、普通株式を基準とした低い行使価額でも税制適格要件を満たすことが可能となり、この問題を解決することができるのである。

7. 種類株式を活用する際の注意点

前節では活用場面として一例を紹介したが、種類株式の評価は、様々な条件が複合的に付されることが多いため、評価モデルを様々な観点から構築する必要がある。このことから、日本に先立って種類株式を利用している米国では、当初、経験則を拠りどころとし、種類株式と普通株式の価格差は10対1とすることが黙認されていたが、会計上、税務上の問題を引き起こすことが少なくなかった。その結果、今日では第三者の独立評価を得るケースや、自社内での株式評価に知見のある者による株式評価に関する書面を残しておくという実務が行われているが、日本ではまだそこまでに至っていないのが現状である。
このことは2012年10月に弊社が公表したWhite Paper「ベンチャー企業は、安い株価でストック・オプションを発行できる?」でも触れたが、一方でその前提として種類株式の公正価値評価を適切に行わなければならないと述べていた。
経済産業省は、2011年11月に「未上場企業が発行する種類株式に関する報告書」を公表したが、当該報告書は「優先株式は普通株式の価格の10倍以下」とする米国の過去の慣習を紹介しているが、これを誤って理解し、種類株式を発行さえしていれば、普通株式の価値の上昇はないものと考え、安易にVCに種類株式を割当てるベンチャー企業が散見されている。
しかしながら、普通株式との価格差の合理的な説明の難しい種類株式では、前節で紹介したストック・オプションの発行を効果的に行うことは難しい。また、価格決定方法が合理的でない場合の種類株式の発行は、会社法上の承認手続さえすれば可能ではあるものの、適正な時価で株式の発行をしなければ多額の課税関係が生じる。具体的には、VC投資のような第三者割当増資の場合、株式を「有利な発行価額」(時価よりも低額)で引き受けると、新株主は当該株式の時価と払込額との差額だけ経済的な利益を受けることになり、受贈益として法人税が課される可能性がある。
税務上の「有利な発行価額」とは、その新株の発行価額を決定する日の株式の時価に比べて、社会通念上相当と認められる価額を下回る価額を言う。「社会通念上相当と認められる価額を下回る価額」であるかどうかは、法人税法上の時価と発行価額の差額が時価の概ね10%相当額以上であるかどうかで判断されることとなっている。

8. おわりに

日本における種類株式による投資は、VC主導で導入が進み始めた黎明期の時代と言える。最近では、種類株式の内容そのものに対するベンチャー企業の理解は少しずつ得られ始めた印象を受けるが、価格形成にまで踏み込んだ十分な理解は得られていない印象を受けている。
プルータス・コンサルティングでは、証券会社や上場企業からご依頼を頂き、上場会社における数多くの第三者割当型の種類株式の公正価値の評価やフェアネス・オピニオンの作成を行ってきたが、未上場企業が種類株式の公正価値に対して意見書を取得しているケースは投資件数と比して少ないと感じている。評価方法や評価の必要性に理解をベンチャー企業側に広めていくことが、ベンチャー業界の更なる活性化に向けた課題の解決策であると考えている。

 

以上

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References   [ + ]

1. 借入金を梃子(lever)として、投資金額を抑える企業買収は、LBO(Leveraged Buyout、レバレッジ・バイアウト)と言われ、MBOはLBOの形態をとることが多い。
2. 経済産業省の企業価値研究会による「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する報告書」(MBO報告書)では、MBOが行われる実際上の狙いとして、市場における短期的圧力を回避した長期的思考に基づく経営の実現や、株主構成が変更されることによる柔軟な経営戦略の実現、「選択と集中」の実現等が指摘されていること等があげられている。
3. MBO報告書19頁脚注16
4. ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法とも呼ばれ、将来のキャッシュ・フローを資本コストで割り引いた現在価値によって事業価値を評価する手法である。
5. 会社側は、大阪高裁の決定に対して最高裁判所への抗告許可申立を行ったが大阪高裁によって不許可決定がなされ、更に当該不許可決定に対する最高裁判所への特別抗告を行ったが、棄却され大阪高裁の決定が確定している。
6. レックス事例の判例である。
7. [1] 「ベンチャー企業の法務・財務戦略」(宍戸善一 ベンチャー・ロー・フォーラム(VLF)編著、商事法務刊)第7章 ベンチャー・ファイナンスにおける投資契約(棚橋 元)277頁

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